19「妖怪首置いてけなのです」
おかしい……俺の魔法、稲妻の中位精霊と契約し使えるようになった魔法の威力は、一発で兵士を黒焦げに焼き殺す威力を持っている。
それを証明するように、内部まで炭になった死体がそこら中に転がっている。
だのに、だというのに……
「何故死なん!?」
初め、銀髪の女(未だに女とは信じられないが)は稲妻を避けていた。当たればただでは済まないと判断してのことだろう。そう思っていた。
だが、お昼寝カブダブスがどこぞの女を人質に取ってからは動きを止めた。その時点で俺は勝利を確信していた。完全支配もすぐに済むだろうと。
なのにこの女、20発直撃しているというのに、全く倒れない! 肉体もみみず腫のようなものが出来るだけ。
ドラゴンでも膝を付くぞ、これだけ食らったら!
『ちょっと〜、あいつ何? 化け物?』
「やかましい! お前は黙っていろ!」
契約精霊のぼやきに思わず怒鳴ってしまった。本来ならすぐに詫びをいれなければならないが、そんな場合ではない。
中位精霊は戦争の主力兵力として重宝されるくらいの力を持つ。1発に2発で無事だったとしても、次の1発で普通は死ぬはずだ。
仮に、あり得ない筈なのに目の前であり得てしまっている話だが、1000分の1の確率で死ななかったとしても、立ってられる訳がない!
「アニキ、とっとと殺してくだせぇ! 遊んでる暇なんてありゃせんよ!!」
「やかましい!貴様はその女を離さず、黙って見ていればいい!!」
クソッ、クソックソックソックソッ!!
何故死なないんだ、何故……何故!?
『ねえちょっと!』
「なんだ!?」
『あそこ!』
……ん?あそこは、船員の休憩室。……何故扉が開いている?先程まで閉まっていた筈。
……まさか!?
「カブダブス! 気をつけ――」
「――がふっ?」
俺が警告を口にした瞬間、カブダブスの背後に割れた瓶が深々と突き刺さっていた。その後ろでにこやかに笑い、俺に手を振る女の姿。
「お姉さまー、やっちゃってー!!」
「よくやったラスト!!」
あいつの妹か……だが、「よくやった」だと?どうやってここまで。
……と思っていたらあいつ、世界樹に巨大なクレーターを刻み込み一気にこちらへと矢のように突っ込んできた!?
いくら何でも、無茶苦茶に過ぎるだろうが!
『上位くらいの威力あげるから! 何としてもあいつ落として!! 怖い!!』
「落ちろ! 落ちろ! 落ちろ! 落ちろ!」
稲妻が女の顔に、胸に、肩に突き刺さるも、女は真っ直ぐ俺に、怯むこともなく突っ込んでくる。
落ちない、何故落ちない! 俺が恐怖のあまり叫ぼうとすると、口に鉄の味が広がり、痛い熱が全身に突き刺さる。
「首、置いてけオラァ!」
そのままぐりんと反転した視界に映った海と船が、俺が最後に見た光景だった。