16「女に見られたいのです」
海賊がぞろぞろと船に乗り込んでくる。
飛び交う悲鳴と罵声、揺れる船。そして怯えて私にしがみつくアリーシュ。
……どうしようかしら、いやマジで。
手元に得物無いし、アリーシュぶっちゃけ足手まといだし、ここで暴れたら確実にあれよね……婚約破棄どころか婚約までいかないわよね。
でも、ここで動かなかったらいつまでも着かないわね……早く何か、下手物食べてみたいし、恋人探しもしたいのに。
……私が動いても動かなくても同じなのかしら?
……なら、仕方ないわね。仕方ないわよね、王女である私が動くのは。
「いい、アリーシュ。あそこに樽があるのが見える?」
「はい、見えます……」
「落ち着いて聞くのよアリーシュ、あの中に隠れるの」
ガタガタ震えてるアリーシュは足手まといだから、何処かで隠れてもらわなくちゃ動けないのよね。
人質にされても、多分無視して突っ込むタイプだし、私。サムライ○ンプルーのあれみたいな感じに。
「あの、でっ、でも」
私はぎゅっと、アリーシュを抱き締める。そして背中をとんとんと優しく叩く。
これで恐怖を抑えられる筈。
……あら? 震えてないわこの子。もう怖くないのかしら。それとも、私に抱きしめられて安心したとか?
嬉しいけれど、乙女としては複雑ねその心境……。
「あれ、酒樽です」
「……入ってる?」
「タプタプです」
そりゃ無理だわな。
でも他に隠れられそうな場所は……無いわね。
あら、足音が近づいてきているわ。仕方ない、自力で頑張ってもらいましょう。
「アリーシュ、自分の身は自分で守るのよ。隠れていなさい」
「そっ、そんな! バルカ様はどうなされるおつもりですか!? 駄目ですバルカ様も一緒に!」
「大丈夫、私を誰だと思っているの? 不死身のバルカ様よ」
一発ウインクしてあげると、アリーシュはペコリと一つお辞儀をしてからトテトテと隠れ場所を探しにいった。
……足、遅っ!? これじゃ逃げられないわねあの娘。
……仕方ない、とっとと倒そうかしら。あの娘に追いつく前に倒せばいいだけ、簡単な話よ。パイを作るよりも簡単な、ね。
まっ、気絶さえさせりゃいいわよね。血が付いたら流石に誰も寄り付かないだろうし。それならまだ、婚約者探しへの支障は押さえられる筈……。
そーら出てきた、山賊刀――海の上だから海賊刀かしら? まあどちらでもいいけれど、それを持ったバンダナ巻いた男が2人。
「へっへっへっ、見つけ……おっ、女ぁ?」
「スカート履いてるし女だろ、多分」
「いや、でもよ……あれ、本当に女か?」
よし殺そう。