14「今日のメニューは豚肉と煮豆のスパムなのです」
「今日のメニューは?」
「豚肉と煮豆のスパム、スパムとタマゴとソーセージとスパム、スパムとスパムとスパムと煮豆とスパムとスパムの……」
「スパムしかないの?」
私がギルドの食堂で豚肉と煮豆のスパムを食べていると 隣の新入りらしき人が文句を言っていた。
まあ、確かに言いたくなる気持ちは分かる。スパムしかないし、本当に冗談抜きで。
これもあと少しで食べ納めになると思うと味もなんだか感慨深く……ならないなぁ、やっぱスパムは何処まで言ってもスパムだわ。
ちなみにここで食事をとっている理由は、まあ食べ納めよ食べ納め。ぶっちゃけあまり通ってなかったから、思い入れも糞もないのだけれど。
「おやバルカ様、こんなところでお一人とは……さてはまたフラれましたな」
「またとは随分な言い種ね、アルナス」
私の隣に勝手に座るんじゃあないわよ。というかフラれたって、一応私王女なのよ? 無礼罪と国家機密漏洩罪で処刑するぞコラ。
「あんたもここで? 嫁さんと娘さんは?」
「はっはっ、自分はこれから仕事でありますからね。ゆっくりと家で食事をする時間はないのですよ」
ふーん、大変なのね。まあ私には関係ないけども……。
しっかしまあ、毎回見て思うんだけれども……
「あんたさ、ちょっと痩せすぎじゃない?」
「バルカ王女はいつも同じことを言いますね」
「えっ、そう?」
マジか、私そんなに同じこと言ってたのね。まあ、 そんくらい衝撃的だったってことなのでしょうけども。
何せ、本当に骨と皮しかないからねこいつ。よくもまあこれで相手を見つけられたものだわね。
「……なんだか不安そうね」
「……そう見えますか?」
まあ、フォーク動いてないし。そりゃあスパムなんてそんなに美味しい訳でもないけれども、でもだからといって手を止める程不味いという訳でもない。
なのに食が進まないとなれば、ずばり悩みごとか病気かだわよ。
「実は……2か月後に娘が、向こうの大陸へ留学するのが決まっておりまして」
「へ? 2か月?」
つまりは4か月は男を手に入れられないということね……まあ、それくらいの期間なら待てるわね普通に。
希望を持てるって、こんなに素晴らしいことだったのね……のね!!
「まだ気が早いとはいえ分かっておるのですが、いずれ私の前からいなくなってしまうと思うとどうしても……」
「……確かに早いわね」
まだ2か月あるのにこんな状態になって……娘さんが留学したらこの人、死んじゃうんじゃないのかしら?
……待てよ? そういえば私、入学手続きしていない!
「その学校って、入学手続きもう終わってたりとか……」
「……今日で締め切りになりますが、それがいかがなさいましたか?」
きょっ、今日まで!?
私は急いで時計を確認する。時刻は午後10時、走れば間に合うわね……!
「ありがとうアルナス、私ちょっと用事思い出したから代わりに払っておいて」
「へっ? は、はぁ……?」
いつものように適当な金額をアルナスに押しつけ、私は弾かれたように店を飛び出した。
間に合ってよ、お願いだから! 私のイケメンパラダイス!