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1「英雄だって甘えたい時ぐらいあるのです」

「ねえお姉さま」


 私は甘えた声で、ネビリナお姉さまの膝に頭を乗せながら問い掛ける。

 私とは違い、さらさらと、触れれば溶けてしまいそうな白い髪。そして宝石のように美しい真っ赤な垂れ目。やっぱアルビノは西洋人にこそ似合うのよね。

 お姉さまは慈愛に満ちた顔で私の、柔らかな、茶色い頭を撫でてくれる。私はこの感覚が大好きだ。心地よさというか、安心感に包まれるから。


「どうしてあたくしの前に婚約者は現れないの? どうしてみんな、私の下から去ってしまうの?」

「可愛く、勇敢な私のバルカ、それはね」


 すっ、と私の髪から、お姉さまは私の頬に刻み込まれている、三本の爪痕を撫でる。街に侵入した魔物を倒した際に受けた傷、乙女の顔に刻まれた消えない傷。だが私は、家族の為に、民の為に受けたこの傷を誉れとしている。


「貴女の武勲の前に、男達は己の小ささを恥じてしまうからよ」

「ただ単にあんたを怖がってるだけじゃないの?」

「グハッ!」


 私とネビリナお姉さまの姉、エクレールお姉さまの言葉によって、私の心に多大なダメージを与えられた。

 ああ、警告音が鳴り響いてるわ……私の頭の中で。


「ちょっ、ちょっとエクレール! バルカは今心に傷を負っているのよ!? 慰めてあげなさいよ姉として!! 慈悲をくれてあげなさいよ!」

「何よ、本当の事を言っただけじゃない。あとバルカ、その喋り方やめなさい気持ち悪い」

「それが本当でも言わないであげるのが情ってものよ」


 ああ、私の為に争わないでお姉さま……と、どこぞの百合ゲー的な感想を胸に秘めながら未だ膝枕状態の私、バルカ。

 初見である、バルカ・ド・モンテクルズ第三王女だ。

 今は傷心を癒してもらっていた……いやね、だってさ、まさか新たな許嫁がホモだとは思うまい。またホモだとは思うまい。二度あることは三度あるって本当だったんだわね。あたし男に負けたんですだわよ。ちくせう、納得出来ない。

 いや、弟の色目に引っかかってる辺りでうすうす感づいてはいたんだけどね。


「しっかしまあ、あんた凄いわよね。これで8人目だっけ? 平民でも多くて2、3回程度のを8回って」

「……大丈夫よバルカ、貴女はいい娘だもの。男なんて、星の数いるんだから」

「星には手が届かないけどね」


 エクレールお姉さまが的確に苛めてくる。うん、普通許嫁ってそんないるものじゃない筈なんだけどね。

 1人目は確か、私の男らしさに劣等感を覚えて破棄された。2人目は「お前を護れるくらい強くなって帰ってくる」と言い残し、修行していた場所で出会った娘と出来ちゃった婚した。3人目は……うん、今は考えるのをやめよう。これ以上思い出したら私の心が折れちゃうわ。カンッ、ポキッ、プスッという感じに。


「そういえば、アルナスから手紙来てたわよ」

「アルナスさんから?」


 アルナスさん、私がよく利用している冒険者ギルドの取締役だ。

 冒険者ギルドというのは本来、戦争が終わり、溢れた傭兵達を野盗の類にしない為に作られた組織。そしてどういう訳か、私がそのギルドランクのトップに立っている。ランクというのは、まあ、あれだ。実力的なあれだ。

 お忍びで通ってる間にいつの間にやらそこまで上り詰めてしまったのだ。実力も国のトップなあたしって天才ね。そのせいで男が逃げていくわ、やったねバルカ!

 しかし私に用事とは何だろう、と思い、エクレールお姉さまから手紙を受け取る。経由にはネビリナお姉さまを通して。ああ、甘やかされるのって最高。

 蝋印の封を開け、便箋を開く。あらあら、これは……


「あらあら、あたしの同僚が結婚だなんてウフフアハハ……」

「ばっ、バルカ!? 正気に戻って、まだ16歳じゃない! まだまだチャンスはあるわよ!! だから瞳に光を灯して怖いから!!」

「……その同僚、あーしと同い年」


 ネビリナお姉さまがなにも言えない表情で、私の頭を撫でる。エクレールお姉さまは口元押さえてプルプル肩を震わせる……笑ってやがるこの女ァ……。


「結婚式になんか出ないんだから……絶対に出ないんだから!! ご祝儀だけ渡して帰ってやるわ!」

「スピーチも頼まれてるじゃない、いいの? 随分慕われてるようだけど」

「私の胃に穴が空きますわ」

「ふーん、そっ。んじゃま頑張ってね」


 ひらひらと手を振って、エクレールお姉さまは出ていった。


「私これからデートだから」


 なんで去り際にそれ言ったエクレールお姉さま? 嫌味か貴様ッ!!

流行に乗ってみた

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