表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い熊の人形  作者: 杉本じゅな
1/2

エピローグ

 エピローグ 


 永遠に続く漆黒の闇の中。生きているのか、死んでいるのかさえ認識することも出来ない。



 肉体は無く、魂だけの世界?



 それとも...夢なのか。頭が割れるように痛い。


 俺は声を出そうとしたが、まるで金縛りにあったかのような呻き声だけが絞り出た。



 その時、闇の中から猫の声が聞こえた。



 ニャォー......。


 懐かしさを覚える鳴き声。



 足下に暖かい温もりのあるものが摩り寄っている。


 俺は、何とか視線だけでもそちらへ向けることが出来た。

 

 ......セナ......



 何故か俺の足下だけ光が放ち、そこには10年前にこの世を去ったはずの飼い猫だったセナがいた。

 セナの色は濃いグレーだが、体が眩しい程輝いている。


 ......セナ、セナだよな?お前、生きてたのか?......



 セナは俺の顔を確認する様に目を丸くして見た後、急に身体中の毛を逆立てながら視線を変えると「フーッ!」と激しい威嚇の声をあげ、金色に輝く豹の様な眼で一点を凝視した。



 だか、俺には闇だけが続いている。



 ......かず...き

 里奈?   ......かずき...


 里奈の声だ。


 セナが威嚇し視線を向けている方から、今度は里奈の微かな声が聞こえてきた。


 どうした!何処にいるんだ!


 叫ぼうとしても、やはり呻き声にしかならない。


 ......たす...け...て......  


      ,......た...す...けて......  


 助けて?その言葉に恐ろしい予感と共に背筋が凍りついた。

 渾身の力を込めて体を動かそうとしたが、どうする事も出来ない!


『里奈!何があった!何処にいる!返事をしてくれ!』心の中で叫んだ。


 突然、目の前に里奈の姿が写し出された。


 切れ長の大きな瞳が恐怖に怯え切っている。


 よく見ると、殺気に満ちた女が里奈に馬乗りになり、鈍く光る刃物らしきものを里奈の腹部に降り下ろそうとしていた。 


 立て膝で必死に抵抗していた里奈のすらりとした足が、力なくだらりと伸びた。


 『りなー!やめろっ!やめてくれー!」



 やっと、声らしきものが俺の口から出た瞬間、その女がジロリと俺の方を向いた。


 ぎょっとした。


 真っ黒な短い髪が逆立ち、顔はマネキンそのものだった。


 女は無表情な顔でカクカクと彼女に視線を戻した

その瞬間、一気にその刃物らしきものを降り下ろした。



 りなぁぁぁ......!




 突然、視界が変わり俺の目は天井を見ていた。


 目が覚めたのだ。


 咄嗟に横を見た。里奈が穏やかな寝息をたてて眠っている。


 ......良かった......。


 夢だったんだ......。

 

 サイドテーブルに置いてある時計の針は、まだ4時35分を指している。


 俺は華奢な彼女の体に布団を掛け直すとベッドから降りた。



 しかし、なんて気味の悪い夢だったんだろう。まるで、現実と錯覚してしまう様な酷い夢だった。


 いまだに激しい動悸と頭痛がしていたし、もう眠れたものじゃない。

 

 ......里奈が襲われるなんて、縁起でもない夢だ。


 人に恨まれる様な彼女ではない。


 ......そして、光を纏ったセナ......。


 

 初夏の日の出は早い。


 アーチ型のまどをそっと開けると、既に東の空に朝焼けが広がっていた。


 全身が汗で気分が悪い。


 俺は、良く眠っている里奈の額に軽くキスをすると、シャワー室へ向かった。 



 まさかこれが惨劇の始まる合図だとは気付かづにいた、

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ