第七十五話 オーロラの塔
大変長らくお待たせいたしました。ブックマークして下っている方、見捨てずにいてくださって本当にありがとうございます。今まで何をしていたかって?妊娠して、何度か入院して、出産して、今は子育てしております。子供は8か月...週に一度ペースで更新できたらいいなと思っておりますが、気長にお待ちいただけると幸いです。
その塔は、開国の祖であるライムレヴィンが眠る教会の北側、その庭園の片隅にひっそりと在った。名前の通りオーロラのように輝くのは、壁面に火・水・風・土の魔宝石が埋め込まれているから。それは美しいだけでなく、あらゆる魔法を防ぐ鉄壁となる。
すなわち、この塔は魔力を持つ貴族を幽閉する優美な牢獄なのだ。
今、この塔にいるのはただ一人……
「ローミ……、ローミ!」
深夜。
塔の中は暗い。廊下の壁には等間隔にロウソクが立てられていたが、自分の足元がおぼろに見えるくらいだ。牢の中にロウソクはない。しかし頭上に一つある小さな窓から差し込む月光が彼女を包み、その白い姿を浮かび上がらせていた。
銀の髪がまるで白い炎のよう。
鉄格子越しに、私は潜めた声を精いっぱい張り上げた。こちらに背を向け、窓を見上げていた彼女が振り返る。その目が見張られた。
「マーレ……!あなた、どうやってここへ?」
その問いかけに答えられないほど、私は衝撃を受けていた。
つい先日まで美しい卵型だった彼女の頬は、影が落ちるほどこけていた。
そして何の飾りも無い白いドレス、両手首と首に巻かれた銀の鎖は処刑を待つ罪人の証。
鉄格子を握る手に力がこもる。でも耐えられず、目から涙がしたたり落ちた。
彼女が駆け寄ってくる。そして、鎖でつながれた両手で私の手をそっと握った。
冷え切った、青白い手。
それは私に更なる熱い涙をこぼさせた。
「ローミ……。私、絶対助ける。絶対、あなたを死なせないから……!」
決意が口からこぼれ出る。
驚きに見張られていた藍色の目がゆっくり閉じられる。笑みすら浮かんだその顔が横に振られた。何度も。
「ローミ!」
「いいの、もう。もういいのよ……」
「よくない、何もよくない……!」
私を見る目は駄々っ子を見るそれだ。
その藍色に、混ざる色は諦観。彼女は完全に諦めている。理不尽な運命、それをすべて受け入れるつもりなんだ。
「分かっていたはずなのに。
ゴットハルト様は王子。その自負を傷つけられるくらいなら、死を選ばれるでしょう。
でもわたくしは……。
愚かな期待をしてしまった。立場よりも、ぼくを選んでくれるのではないかと考えてしまった……!
そんなことをするゴットハルト様は、ゴットハルト様ではないというのに。そんなゴットハルト様だからお慕いしていたのに……。わたくしは……」
銀の鎖がしゃらりと鳴る。両手で顔を覆って、ローミは膝から崩れ落ちた。
私は鉄格子から精一杯腕を伸ばして、そんな彼女の肩を抱いた。少しでも私の熱を分け与えたくて。彼女を慰めたくて。
「もう裁定は下ってしまったの。わたくしは断頭台へ上がるのよ、ゲームのエンディングと同じようにね……」
「ゲームじゃない!
この世界はゲームじゃないよ……。だって、私もあなたも生きている、この世界で生きているのよ!」
だから諦めるなんて出来ないよ……!
ローミがはっとして、頭上を見る。月の位置を確認したようだ。
「いけない、見回りが来る時間よ。
……マーレ、最後に会えてうれしかった。でも、本当にもういいのよ。
わたくしは悪役令嬢。何をしても運命は変わらない」
「いいえ」
目にうっすら涙を浮かべながらも微笑み、血の気の引けた唇からもれ出たため息のような言葉。それを私は即座に否定した。
強く、魂を込めて。
「私が変えてみせる、必ず。
主人公が悪役令嬢を救うわ」




