第七十四話 泥酔再び
改めて考えてみると――。
ここに『トゥルーマイナイト~私だけの騎士様❤~』、新旧の主人公と悪役令嬢がそろっているわけだ。しかも仲良く。
そう考えると感慨深いものがある。
「ところでアマーリエ様の周りの殿方って、皆すてきな方ばかりですね。
初めてお会いしたときに一緒にいた公爵家のご令息とか、今日のお店の方とか……」
「公爵家のご令息って、クルト様の事よね?先日、アマーリエお姉様を抱きしめていたわ!」
まあ!とティアナが口に手を当てて、目を丸くして私を見た。
ゾフィ、それって事実を伝える正しい言い方じゃない……。
「違うわよ、転びそうになったのを助けてもらっただけで……」
「いいえ、お姉様。クルト様は絶対気があります。だって、お姉様を見る目が違うもの。
でも、お兄様もお姉様の事気になっていると思うのよね……。そう思うと、お姉様にはお兄様を好きになってもらいたいわ。二人が結婚したら、お姉様は私の本当のお姉様ですものね」
目を輝かせて言うゾフィに、何杯目かのワインを飲むローミが唇をゆがめる。
「あら、マーレはその他にシュテファン・キュンツェル様、アウレール・ファーナー先生、ヤン・アーレン様、皆に憎からず思われているのよ。
誰を選ぶのかしらねー。ここではっきりさせた方がいいんじゃないの?他の子が狙えないじゃない」
うぐっ。
私はオードブルをのどに詰まらせ、グラスの中身を飲み干した。
ゾフィとティアナはきゃあきゃあ言っている。
「うらやましい、お姉様!私も同じ立場になって選んでみたいっ」
「アマーリエ様の人生って、本当に物語の主人公のよう……」
いや、ティアナ。貴女も主人公なのよ……。
私は日本酒を開けてグラスに注いだ。飲まずにやっていられるかっ。
「ほら、可愛い後輩たちがこう言っているし。早く1人選んで、他の方々は譲ってあげなさいよ」
「そうですよ、お姉様。誰を選ぶんです?」
「アマーリエ様、もしかして逆ハーレムをお望み……?」
おいこら。
「それはないっ!」
私の断言に、皆ケラケラ笑う……、ていうか。みんなワインをがぶ飲みしてるじゃん。
ふらふらとティアナが立ち上がった。
「ティ、ティアナ??」
「なんか暑いー。あつーい」
ネグリジェの裾を、がっとつかむと彼女はそれを脱ぎだした。
きゃしゃな体に合わない大きめの胸が、プルンと震える。
「げっ。ちょっと、ティアナ!服は着て!」
私は慌てて立ちあがると、ネグリジェの裾を下に引き下ろした。
その隣にいたゾフィは、つかつかと窓に歩み寄り、カーテンを引きあけ窓を開けた。
「ああ、涼しいー。
気持ちがいいので一曲歌いますっ!」
え、なんで!?
「ローミ、近所迷惑だから止めて!」
ローゼマリーはケラケラ笑って動かない。
あれ?なんでこんなに酔いが早いのよー?
しかし彼女の後ろを見て納得した。フルーツ酒の瓶が何本か転がっている。ワインを飲む前に、何本か開けていたのだ……。
「ええいっ。ゾフィ、ゾフィ!」
歌う彼女を部屋に引き摺り戻し、ティアナ共々ベッドに放り込む。
二人は仲よく、すやすや眠りだした。
ふう。
私は息をついた。
ローミを見れば、今度はグラスに日本酒を注いでいるし。
私は彼女から瓶を貰って、自分のグラスにも注いだ。
「ローミ、大丈夫?飲み過ぎじゃないの?」
「わたくし、二日酔いとかしないから」
そういう問題なの?
私はクラッカーの上に、クリームチーズと塩漬け肉を乗せたオードブルを口に放り込んだ。
窓から風が入る。ゾフィを連れ戻すときに窓を閉めることができなかったので、開きっ放しだ。丸くて大きい月が見えた。
「二人とも、いい子ね」
月の光を浴びるローミがつぶやいた。
銀の髪と藍色の目を縁取るまつ毛が月光を含み、輝いている。顎の小さな顔が、私の方に向けられた。
「このまま皆と……、貴女と仲良くしていけたら幸せね……」
うっすらとほほ笑んで言うローミに、なぜか私は不安を覚えた。
だからそれを振り払うように言った。
「もちろん、ずっと仲良しでいられるわよ」
ローミは笑顔でそれに応え。
そのまま私たちは黙って月を眺めていた。




