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第六十一話 初めての魔法演習

「なんか……。昨日そなたと謁見した後の、両親の様子がおかしいのだが……。

父上が母上に話しかけても、母上は知らん顔。……何かあったのだろうか?」


王子様が困惑気に聞いてきたのは、次の授業のために教室を移動しようと廊下を歩いている時であった。ばったり会った王子様に声をかけられたのだ。


ローミはすぐに手で口を覆ったが、間に合わず横を向いて吹き出した。彼女には昨日あった出来事を話してある。


私は笑顔全開で言った。


「さあ?」


これ以外何が言えただろう……。


王子様はもの問いたげにローミを見ているが、彼女は明後日の方を見て視線を合わせない。


クルト様が王子様の隣で、やはり首を捻っている。


「うちの父上も、帰ってきたら「どうせオレはじじいさ……」と、落ち込んでいるんだけど。意味が分からない」


分からない方がいいと思います。


「なんか体力的に、衰えでも感じたんじゃないですか」


私は適当な事を言ってごまかした。






「では、改めて初めての魔法演習授業を行いたいと思います」


演習場にて。


ファーナー先生は生徒の前で、そう宣言した。


自然巻き起こる拍手。


それが静まるのを待って、先生は授業の説明をし始めた。


「ではまず、それぞれの魔法属性ごとに分かれていただきます。

火・水・風・土の順に、助手の先生の元に集まってください。

アマーリエは、私のところへおいでなさい」


私は指示に従い、ファーナー先生の元へ行った。


皆それぞれ分かれたところを見ると、一番多いのは火の魔術師かも。その他は大体一緒ぐらいの人数だった。


四つすべて使えるタイプは私だけか……。ちょっと寂しい。


ふと思いつき、聞いてみる。


「先生、在校生で四つ使えるタイプは何人いるのですか?」


彼はちょっと困った笑顔を浮かべて言った。


「今は貴女だけです。

この国内で、現在確認されているのは10人……と言ったところでしょうか」


少なっ!


しかし、希少だからと言って価値があるかは微妙だ。なにしろ一つの魔法の威力は、一種類だけ使えるタイプの平均を大きく下回る。多分、四分の一以下。だから、あまりありがたみはない。


「確かに一種類の魔法を使うと威力は落ちる。しかし、同時に複数の種類を使えば反比例式に威力が上がる……と、200年前の大魔術師アーブラハムは言っています」


アーブラハム?名前だけは聞いたことがあるような……。


「アーブラハムっていう人は、四つ使えるタイプの人だったんですか?」


私の言葉に、先生は大きく目を見開いた。そして首を横に振る。


「やれやれ……。まあ、アマーリエは女の子ですし、あまり英雄譚とか戦記物には興味はありませんか?彼のいさおしは絵本にもなって、少年たちのあこがれの存在だったのですがねぇ」


そういえば小さい時なんか聞いたような……。


私は身を縮めて小さくなった。恥ずかしい。


「では、この名前に覚えはありませんか?

『神鳴りのアーブラハム』」

「あ!それなら知っています!」


私は思いだしたのがうれしくて、つい大きな声を上げる。


そう、そうだ。『神鳴りのアーブラハム』。小さい頃、その題名の絵本をお父様に読んでもらった。


人魔戦争から300年たった頃。ライムレヴィ王国は隣国である大国の侵攻を受けた。王を旗印に徹底抗戦し、最後の決戦となったのが大平原の戦い。その時、大平原に雷の雨を降らせて敵国を撃退したのが『アーブラハム』だ。その時から、彼の呼び名は『神鳴りのアーブラハム』。


先生は大きく首を縦に振る。


「そうです。その『アーブラハム』は四つ魔法を使えるタイプだったのですよ。

しかし残念ながら彼以降、雷を操る術者は出ていない。

アーブラハムはこう書き残しています。『四つの力を合わせよ。火と水、水と風、風と土。合せて神鳴る力となる』。今まで多くの学者が、彼の遺した言葉を研究しています。しかし、研究する学者はほとんどが普通(・・)の魔術師です。四つの魔法を使える学者は歴史上少ない。そのため、正確に彼の言葉が理解できていない、というのが実情です」


先生は言葉を切った。


それと同時に、どんっ、と鈍い音がして熱風が横から吹き付けた!


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