第五十三話 入学式
士官学校の入学式は、巨大な講堂で行われる。
式には王と王妃、主たる貴族や官僚が列席する。その中に懐かしい顔を見つけた。
シュテファン・キュンツェル騎士団団長だ。
士官学校の貴族以外の生徒は、そのほとんどが騎士団に配属される。だからその頭たる彼は、当然のように毎年配下を引き連れやってきて、生徒の前で騎士としての心構えを説いているそうだ。
「ああ、騎士団のシュテファン様……。なんて大人で素敵なんでしょう!ねぇ、そう思わない?アマーリエ」
隣に座るカーラが熱っぽい口調で言って、私の腕をつかんでゆすった。
彼女はドムス子爵の娘で、幼い頃にお母様に連れられて行ったあるパーティーで知り合ってから仲良くしている。
赤灰色の髪をツインテールの縦ロールにしている。リボンはサテンの真紅。青い目は丸っこく、かおも丸顔。そして少しぽっちゃり目の体型。ふわふわ、優しそうなお嬢様って感じの外見だ。
「そうね、あの鍛えられた体。学生とは違うわよね」
「やだ、アマーリエったら大胆!」
私たちは小声でひそひそ、熱く語り合う。
ちなみにローゼマリーは前方の貴賓席に近いところに、他の上級貴族と共にいる。
すっと背筋を伸ばし、まっすぐ前を向く彼女の姿は目を引いた。
士官学校は制服もあり、表向きすべて生徒は平等という看板を掲げているけど、所詮は身分社会から脱却できていない。前方から上級貴族、私たち下級貴族、騎士、それ以外の庶民、と如実に座席順に現れていた。
来賓、最後に学校長の長い挨拶を半ばぐったりしながら聞いて。解放されたのは昼近くになってからだった。
今日は入学式のみでおしまい。授業は明日からになる。
「ねえ、アマーリエ。教会の近くに新しいお店ができたのよ。世界各地のいろいろな珍しいものを扱っていて、店主がまた素敵なの!一緒に行かない?」
「新しいお店?行く行く!」
私は久しぶりの友人とのショッピングに胸躍らす。その時、背後から声をかけられた。
「アマーリエ」
正面のカーラの顔は、口と目を大きく開けている。
振り返ると、王子様、クルト様、カイ様、ローゼマリーがそろい踏みしていた。
周りが先ほどと違うざわめきに包まれているのに気が付かなかった……。
「私たちはこれからサロンに行くのだが。アマーリエ、そなたも一緒に行こう」
王子様のお言葉だけど……。
私は申し訳無げに言った。
「あいにく先約がありまして……」
「ひいっ!」
私の言葉が終わらぬうちに、カーラが小さな悲鳴を上げた。
びっくりして彼女を見ると、なんか真っ青になって後ろによろめいている。
「カーラ?どうしたの?」
私の言葉に、彼女は首を横に振った。
「き、今日は私都合が悪くなったから……。さようならっ」
「はぁ?ちょっと、カーラ!?」
私が止める間もなく、彼女は走り去っていった。
残された私は、口をぽかんと開けてしまった。
えっと……。
「……先約、なくなったのでお供します……」
そう言うしかなかった。
でも、ふと気づく。みんな手ぶらだ。
「でもこの荷物、寮に置いてきます」
私は手に持っていた入学のしおり等、配布物を掲げる。
ローミが辺りを見回す。
「私のはさっきハンナに持って行ってもらったのよね。もう近くにいないわ」
いいよねー、メイド付きの人は。
「じゃあ、私たち先に行ってるから。すぐに追いかけてきてよ、この後みんなで昼食をいただくんだから!」
はいはい、わかりました。
ローミの言葉に、私は寮へ小走りに向かった。




