第五十話 士官学校入学
「うわあ……」
私は王立士官学校の前に立ち、絶句する。
大きい。
石造りの壁、5階建てだろうか?ちょうど正面の真ん中、張り出して建てられている3階建ての部分にドーム状の屋根が付き、大理石で作られた大きな柱がそれを支えていた。柱の向こうに大きな扉があり、どうやらそこは吹き抜けのホールになっているようだ。
建物のそこかしこには塔が何本か立っている。その上に王国旗と校章旗が立てられていた。
敷地は広く、その他にもいくつも建物があるみたい。東京ドーム何個分だろう……。
「アマーリエ、あの木立の向こうに女子寮があるのよ。男子寮は建物を挟んだ、反対側の木立の中」
お母様が教えてくれる。彼女はここの卒業生だ。
士官学校入学式まであと10日。この10日間が入寮期間となり、私たち生徒はこの間に寮に入らなければならない。
私は初日に入寮する事にした。そちらの方が早く慣れると思うし。
ゲルダと他のメイド達が馬車から荷物を下ろしてくれる。トランク一つぐらい持とうと申し出たけど、丁重に断られてしまった。
校舎の扉をくぐると、内装の重厚さに圧倒される。なんか文化財みたいだ。
中では他の生徒何人かにそれぞれ学校関係者が付き、説明を受けているようだった。
「ようこそ士官学校へ、アマーリエ・ベル」
「!ファーナー先生!」
見知った顔に会い、私はうれしくなる。
相変わらずボサボサの灰色の髪を無造作に一つに束ね、丸眼鏡は少しずり落ちている。そこから優しげな、深緑の目が覗いていた。
「お久しぶりです、先生」
「アマーリエ、……学校に入学したからにはそう呼ばせていただきますが、お元気そうで何よりです。あなたの入学を心待ちにしていました」
え。
どきっと心臓が脈打つ。
彼は目をキラキラさせて、熱心に言った。
「ぜひ私にも、魔族に会ったお話しを聞かせてください!」
他の生徒に聞こえぬよう小声で言われた。
ですよねー。私は内心がっくり、あいまいな笑顔を作る。
こほん、と彼は気を取り直すと笑顔で言った。
「本日は私が貴女の案内係ですよ。まずはお部屋にご案内しましょう。他の方々が荷物の片づけをしている間、校内をご案内します」
そう言った彼の後に続いて、私たちは校内に入って行った。
「ここが貴女のお部屋ですよ。今日は案内のため私たち男性も入れますが、常は男子禁制ですのでご安心を」
ファーナー先生はそう言って扉を開け、私たちを招き入れた。
小さな部屋だけど個室だ。
男爵家での私の部屋よりは小さく、前世での私の部屋より数倍広い。
3階建ての寮の2階。ベッドと小さなソファとテーブル、箪笥と勉強机があるだけ。無地のカーテン、シンプルな内装。
過ごしやすそうだ、と私は満足した。
「私の時とちっとも変っていない」
お母様が目を細めて行った。懐かしんでいるみたい。
「では、荷物の整理はお任せしてもよろしいですか?私は彼女を連れて、校内を案内したいと思います」
「はい、よろしくお願いいたしますわ、先生」
ファーナー先生の言葉に、母は頷いた。
「さて、これで一通り案内が終わりました。
何か質問はありますか?」
校舎内を一回りし、教室や食堂、講堂などの場所を確認した後、先生はそう言った。
私は恥ずかしながら一度で覚えきれない……。正直にそう言うことにした。
「大体わかりましたが、覚えきれませんでした……。あとは使いながら覚えていくことにします」
先生は苦笑する。
「そうですよね、一度で覚えきれるとは思いません。最初は団体行動が多いと思います、徐々に覚えていけばいいですよ。
……まだ時間があるようです。よろしければ私の研究室にいらっしゃいませんか?お見せしたいものもありますので」
国一番の魔術師の研究室か、面白そう。
私はついていくことにした。




