第四十二話 オープニング
ローゼマリーは侯爵家にいなかった。
王宮に行っているという。手紙だけ置いてきましたと、使いに出した者から報告を受けた。
王宮か……。
私は唇をかんだ。
どうしよう、騒ぎが大きくなる前に対処しないと……。
「ゲルダ、王宮に行きます。馬車の用意を」
「お嬢様!?」
ゲルダが驚いて声を上げた。
私はそんな彼女を見て説明する。
「これは絶対、私たちが国境で魔法を使ったせいよ。
だから魔王がこちらに来るのが早まった。
騒ぎが大きくなる前に、収集したいの」
「……魔王がこちらに来るのが、……早まった?」
あ、しまった。
私はチート能力で未来を知っている。それを口を滑らせて言ってしまっていた。
「……いえ、昔魔族が進行して来たことがあったのだもの。いつか魔族が現れてもおかしくないと皆思っていたはずよ。
そんな中、私たちが大きなのろしを上げてしまった。そのせいで魔王が来たのでは?と、そう言いたかったのよ」
苦しい言い訳。でもゲルダは頷いた。
「わかりました、お嬢様。
お嬢様は責任を感じていらっしゃるのですね……。馬車を用意します」
おかしいと感じているだろうに、彼女は余計な質問をしなかった。
私を信頼してくれている、そう思う。
彼女の後姿に、「ありがとう」とつぶやいた。
王宮に一人で来たのは初めてだ。
応対に出た侍従の人に、ローゼマリーに面会したい、無理なら手紙を渡して目を通してもらってほしいと用件を伝える。
控室で一人待っていると、先ほどの人が戻って来た。ローゼマリーのところへ案内してくれるという。
そこは王子様専用の応対室のようだった。
きらびやかな室内、王子様を上座にローミとクルト様、カイ様が座って談笑していた。
うわ、場違い。来なければよかったかも。
私は後悔するが、もう遅い。覚悟を決める。
「アマーリエ、よく来てくれた。
そなたがローゼマリーと共にここへ来てくれるのを、舞踏会から首を長くして待っていたのだぞ」
冗談めかして王子様が仰る。
私は微笑んだが、たぶん顔が固かったと思う。
「アマーリエ、ここで会えてうれしいよ。
オレの隣に座るといい。カイ、ちょっと席移って?」
「何言っているんですか……。彼女はローゼマリーの隣に座ればいいでしょ」
と、クルト様とカイ様が侃々諤々やり始める。
全く……仲がよろしいことで。
ローゼマリーが席を立って、私に近づいてきた。
「本当に珍しい、あんなに誘ってもこなかったのに。
……何かあった?」
彼女は、私の様子がおかしいと察していた。
私は頷くと、彼女の耳に口を寄せる。
「『甦りの聖女』が男爵家の領内に現れた……」
ローミの顔からすべての表情が抜け落ちた。
「ローミ?どうかしたのか」
王子様がいぶかしげに声をかける。二人も口論を辞めてこちらを見た。
ローミは静かに振り返ると、何事も無いように微笑んだ。
「いいえ、なんでもありませんわ。……乙女の秘密です。
さあ、マーレ。せっかく来てくれたのだもの、一緒におしゃべりしましょう?
貴女の馬車は返してしまいなさい、帰りはうちの馬車で送っていくから。
ねえ、王宮のお菓子っておいしいのよ。わたくし、いつも食べ過ぎてしまうの」
なるほど、帰り侯爵家によって打ち合わせしようって事ね。
私は退出しようと思っていたが、その言葉に残ることに決めた。
ものすごく場違いで、居辛いけどね。
『甦りの聖女』ティアナ・ヴィルフェルト。
彼女は『マイトゥルーナイト~私だけの騎士様❤~season2』の主人公だ。
第一幕の主人公が退場しないうちに、第二幕の主人公が登場してしまった。
っていうか、まだ私登場もしてないのよね。士官学校に入学もしていないし……。
私とローミ、これからどうなるの?
チート能力もこれには答えられなかった。




