第四十.五話 お仕置き(前編)
またまたクルト視点です。
夜会当日。オレは、王子とカイと共にいた。
王子はオレが謝罪すると、「そなたなりに、私と王家のためにしたことだから」と許してくれた。しかも、自分も一緒にアマーリエに謝るという。
「色恋に関しては百戦百勝と豪語していたのに、情けない事ですね」
カイが嫌味を言うが、オレは黙って耐えた。何も言えない。
いつものオレと様子が違うことに気づき、カイはうろたえた。
「いや……、えっと。
そんなに落ち込むな。オレも一緒に頭下げてやるから」
なんだかんだで、こいつは人が好い。
会場に入ると、全体がざわつくのが分かった。
いつもそうだ、王子とオレ達はいつも華やかな場の中心となった。
大広間を見渡す。王妃様と母上を見つけた。
その後ろに見え隠れするのは……。
目があった。すぐにそらされ、母上の後ろに隠れられた。
アマーリエだ。
心臓が痛い。
彼女を思い出すと、泣き顔しか出てこない。
オレの腕の中で震えて、目を見開いて怯えて泣いていた顔。
地面に座り込み、放心して泣いていた顔。
全部泣き顔。
どうしようか。
オレはどのように謝罪するか、悩み始める。
いきなり膝をついて謝るか?
しかし人の目が……。訳を知らぬものは何事かと思うだろう。
まずは普通に謝ってみようか。
そうして、その反応を見て次の手を考えよう。
「アマーリエ嬢……。
先日は失礼した。許してほしい」
王子は謝罪した。
彼女は王子には怒っていないと告げている。
もうオレは、開き直った。
なるべく爽やかに、謝ることにした。
「アマーリエ、この前はゴメンね。あんなに怯えるとは思わなかったんだ」
オレの謝罪にカイがケチをつけた。
「……全然悪いと思ってないですよね?」
なんてこというんだよ、せっかく覚悟を決めて謝ったのに。
オレは憮然と言った。
「失礼な。思っているよ。
ホント、ゴメン。反省しているよ」
「いや、アマーリエはお前を許さないってよ」
いきなり、背後の至近距離から声がした。
同時に腕を取られ、羽交い絞めにされる。
抵抗できなかった。
振りほどこうとしたが、密着する体躯は上背があり、かなり鍛えられているとわかる。
「ちょっ、誰だよ……て、父上!?」
振り向いてみた顔は、自分の父親だった。
え?何?なんなの?
オレは混乱した。訳が分からない。
オレだけではない。王子やカイも唖然としている。
「ゴットハルト、カイ、こちらへおいでなさい」
王妃様の声がした。そして、王子の問いにこう答える声も。
「お仕置きの時間です」
……え?
美しい年上の王妃様に「お仕置き」なんて言われて、ちょっとトキメキで胸が熱くなったのは内緒だ。
アマーリエがオレの前に立つ。
この前とは打って変わって、満面の笑みだ。
うきうきと目が輝いているように見える。
アマーリエ、そういう趣味だったの……?
「え?本当にこれなんなの??
アマーリエ?悪かったって。反省しているよ……」
オレの必死の謝罪に、彼女は首を横に振る。
「ここにいる招待客。クルト、あなた覚えがありませんか?」
「え、呼び捨て?
って、招待客??」
オレは周りを見回し、気が付いた。
男どもは知らないが、女性は皆オレが昔声をかけた女性だ。
王子に寄ってきた女性をオレは片っ端から口説いて、その気になったら手ひどく振って捨ててきた。
そうしたら常に王子の傍にいるオレに会うのを避けて、王子にも声をかけてこなくなる。
そう、王子を守るためさ。それからローゼマリーも……。
自分のしたことに後悔はない。しかし恨みは買っていると覚悟していた。
いたけど……。
「うそだろっ……これって公開私刑!?」
これは想像していなかった。
オレはこれから何をされるのか?内心慄いていた。




