表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/98

第四十話 意趣返し(後編)

王妃様とローゼマリーは似た者同士のようです。

公爵はクルトの肩越しにそれをのぞき、感嘆の声を上げる。


「なんと倒錯(とうさく)的な拷問(ごうもん)用具……。

今からそれが息子に使われると思うと、胸が熱くなるねぇ……」

「変態ですか……?父上……」


がっくりと首を落として息子は言った。


事情を知らなかったローミも、今はすべてを察したようだ。


トランクの中身を見て、首を左右に振る。


「ムチ、ロウソクはいいとして、ロープが白いのはダメね。赤いロープが白い肌にえるんじゃないの」


王子様がちょっと引いた……。でも王妃様のがすごい。


「あら、白いロープがムチでたたかれた肌からにじむ血で赤く染まるのもいいわよ」

「いや、ほんと、ちょっと待って!怖い怖い怖いって……!」


クルトが耐え切れず悲鳴を上げた。


そうだ、あの時の私と同じようにおびえるがいいーっ。




「……まあ、傷はつけないと約束したので、このトランクの中身は今回は使いません」

「「えーっ」」


会場からブーイングが起こる。


ローミと王妃様が、一番不満の声を上げている……。


「傷をつけずに一つ、意趣返しをしてもいいということでしたよね?公爵夫人?」


私は振り返った。


コルネリウス公爵夫人はうなづいた。


「まあ、治る傷なら多少つけてもいいですけどね」

「母上ーっ!?」


情けない声がクルトから上がる。


私は彼に向き直った。


「お、どうするアマーリエ?

顔にする?それとも腹??」

「父上ー!?」


私は彼の前にトランクを置いた。そしてそれに乗っかる。


すると私の方がクルトよりも視線が高くなった。


「ちょ、ちょっと、何をする気なの……」

「ほう、上から行きますか。

念のため言っとくけどね、クルト。足で蹴ったりしたらお前の体を持ち上げて、そのまま後ろに放り投げるから」


公爵様、フォローありがとうございます。


私はクルトの耳に口を近づけ小声で言った。


「クルト、あなた本当はローゼマリーの事が好きなんでしょ?」


彼の体が硬直する。


公爵の目がクルトの顔を見て、苦笑した。


「……ほう?」

「そ、そんなわけ……」

「そんなわけでっ!」


私は彼の頭を両手で鷲掴わしづかみにする。


「ちょっ、痛っ、爪痛っ!!……!?」


ガチンッ。


あ痛っ!失敗、歯が当たった……。


私は後ろに飛びずさった。そして指を彼に突き付ける。


「どどど、どーだっ!?思い知ったか!」

「……え、え?」


あまりの動揺どうように声も出ないらしい。


私は顔が赤らみ目に涙が浮かぶのを自覚するが、それよりもクルトに一矢(むく)いてやったという高揚感で声が高まる。


「好きでもない人にキスされる屈辱、とくと味わうがいいわっ!

……って、あれ?」


会場は水を打ったように静まり返っている。


王妃様も、王子様も、ローミも……。公爵やその夫人も、クルトまで目が点だ。


やりすぎた?やりすぎたんだろうか……。


「こ、今回はこれくらいで勘弁してあげるわっ」


まるっきり悪役のセリフを叫び、私はドレスの裾をつかむと扉に向かって走り出した。


男爵家じぶんのうちの馬車に乗り込むと、ゲルダを待って出発する。


「……ねぇ、ゲルダ?やりすぎたかしら……」


心配になって聞くと、ゲルダは苦笑した。


「前半は随分ずいぶん怖がっていましたけど……。最後のアレは、お仕置きになりましたでしょうか……?」

「え、なったでしょ?

好きでもない人とキスするの、イヤでしょう?」

「……まあ、好きでもない相手なら」


そうでしょう、そうでしょう。


こうして私は自分の身を犠牲にして、彼に復讐ふくしゅうを果たしたのであった。


……考えてみれば、ファーストキスだった……。




その後、男爵家には自分もお仕置きして欲しい、ぜひあのスーツケースの中身を自分に使ってほしいという貴公子からの手紙が絶えなかった……。


皆、マゾ?マゾなのか?


私は頭を抱えることとなる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ