第三十九話 意趣返し(前編)
自分の父親に羽交い絞めで拘束されるクルトは、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。
傍にいる王子様もカイ様も、同じような表情だ。
「ゴットハルト、カイ、こちらへおいでなさい」
「母上?これはいったい……」
自分を呼ぶ王妃様をいぶかしげに見る王子様に、彼女は厳かに言った。
「お仕置きの時間です」
クルトの口がぽかんと開く。
私は王妃様と公爵夫人の間から進み出た。すると、周りの人々がクルトを中心に大きく間を開ける。
王子様とカイ様も、訳も分からぬまま王妃様の傍に付いた。
「え、なに?これ……。ちょっと、どういうことですか?父上?離してください……っ」
彼は逃れようと身をよじるが、父は力を込め離さない。
公爵は息子によく似たその顔を、悪い笑みでゆがめつつ言った。
「許せ息子よ。父さんにはもう助けられない……。
お前はやりすぎたのだ、怒らせてはいけない人を怒らせた。
……父さんが母さんに逆らえないの、知ってるだろ?
まあ、今までの報いと思い、存分にその身に受けるがいい……」
「はあっ!?何を、何をその身に受けるって……ア、アマーリエ??」
私は焦るクルトの前に立った。
私は今、公爵以上に悪い顔しているんだろうなぁ……。
暗い笑みが抑えられない。
それをみるクルトの顔が、恐怖にゆがむのを見た。
「ふふふふふ……!」
「え、本当にこれなんなの??
アマーリエ、悪かったって。反省して……」
「ここにいる招待客。クルト、あなた覚えがありませんか?」
「え、呼び捨て?
って、招待客??」
クルトがあたりを見回した。
貴公子が多い、しかし奥方や令嬢もちらほら……。
彼のこめかみから冷や汗が一筋、流れ落ちた。
「そう!
今日招待されたのは、あなたにもてあそばれたご婦人たち、そして恋人や思い人を取られた被害者の方々ですっ!」
「「「おーっ!」」」
会場から肯定の声が上がる。
ますますクルトは焦った顔をした。
「うそだろっ……これって公開私刑!?」
「ゲルダ」
「はい、お嬢様」
ゲルダが後ろから進み出て、トランクを持ってきた。
私はそれを、彼に見えるように開けた。
「!?
……それ、なに……?」
ゲルダが捧げ持つトランクの中身を見たクルトは、間違いなく恐怖に慄いた。




