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第三話 お誘い

あれからゲルダと両親の誤解を解くのは簡単だった。なにしろアマーリエ・ベルは今までの行いが良い。


「そうよね、マーレちゃんが失礼なことするわけないわよねーっ」

と両親は笑い飛ばし、ゲルダも


「そうですわね、お嬢様に限って人様にご無礼をするはずございませんわ」

と納得した。



ちょっとした騒ぎになってしまったため、ローゼマリーは帰った。


「わたくし、虫が大嫌いですの。先ほど壁に小さな影が見えたものですから、虫だと思って取り乱してしまいましたわ。本日はちょっと気分が悪くなりましたので失礼いたします」

と、うちの両親に挨拶していた。


帰り際に私の耳に広げた扇で覆った口を寄せ、「詳細は後日改めて」と言い置いて行ったのでまた連絡があるのだろう。


しかしびっくりした、まさか他に転生者がいようとは。しかも確実にこの乙女ゲーム「トゥルーマイナイト~私だけの騎士様❤~」を知っている人……。


「お嬢様、失礼いたします」


夕食を終え部屋で考え事をしていると、ドアがノックされゲルダが入ってきた。手に白い封筒を持っている。


「エーレンフリート侯爵令嬢様からです」

「ありがとう、ゲルダ」


上質な白い紙に侯爵家の封蝋。ローゼマリーは仕事が早い、さっそく次回のお誘いか。


手紙を渡すとゲルダはすぐに退出し、私はペーパーナイフで封を開けた。


流れるようでありながら形が整った美しい字。今日の失礼を詫びる言葉と、近日中に邪魔の入らないところでゆっくりと話したい、と書かれている。さすがに前世だの、人に見られたらまずい事は一切書いていない。


ふむ……、「邪魔の入らないところ」か。確かにこんな話、誰かに聞かれたら気が狂ったと思われるか、悪ければ異端審問されてしまうかもしれない。場所はどこがいいかと考えたところ、妙案を思いついた。早速、手持ちで一番上等な便箋を用意する。


「私の方こそ本日は大変失礼をいたしました。

さて、ローゼマリー様との親交を深めるべく、当家の別荘へご招待申し上げたいと思いますがいかがでしょうか。

ご存じのとおり男爵領は北の魔山脈のほとりにございます。王都からは馬車で半日ほどでしょうか。別荘は山のふもと、切り立った崖の上に立ち、男爵領を見下ろせる風光明媚な場所にございます。

田舎ゆえ人気ひとけはございませんが、自然を楽しみながら語り合うことができるかと思います。

ご一考くださいませ」

と書いて男爵家の封蝋ふうろうを押し、ゲルダに渡した。


つまりは人のこない田舎の別荘で二人で話しましょうというお誘いだ。


たぶん返事はイエスだろう。ゆっくり腹を割って話し合うためには、アレがいる。こちらの世界にもたぶんあるはずだ……




数日後。侯爵家の出してくれた馬車で、ローゼマリーと共に男爵領に向かっていた。やっぱりうちの馬車より数段上のランクだ。内装も乗り心地も申し分ない。


しかし……


私は正面に座るローゼマリーを見た。さっきから手鏡を持ち、細い指で何やらまつ毛のあたりを触っている。触ってはじっと鏡を見て、また触っては鏡を見る。かれこれ一時間もこれを繰り返している。


ローゼマリーの隣に座る、褐色の肌に黒い髪をもつ小柄なメイドは澄ました顔をして座っている。私の隣に座るゲルダを見ると、これまた視線を伏せておとなしく座っている。


でももう一時間、4人しか載っていない馬車でこれは辛すぎる。意を決して、私はローゼマリーに問うた。


「あの、ローゼマリー様?」

「あら、アマーリエ。ローゼマリーと呼んでくださいな」

「……恐れながら、ローゼマリー?目をどうかされたのですか……?」


ローゼマリーの隣に座るメイドが、チラリと私を見た。ゲルダも同時に私を見る。しかし両者ともすぐに目を伏せた。


「ええ、全く困ったものですわ」


鏡をおろし、私を正面から見るローゼマリーの目には何も異常は見当たらない。


「えっと……赤くはなっていないですね」

「まつげですわ。このカーブが気に入りませんの……ね?ちょっとカールが足りないと思いませんか」


……全く分からない。


「そうですか……?完璧に美しいと思いますが」


今度は顔をはねあげて目の前のメイドが私を見、ゲルダも首を90度捻ってこちらを見た。


え、何?私、変なこと言った?


手鏡を膝に置き、満面の笑顔で小首をかしげてローゼマリーは言った。


「わたくし、女性とアレコレする趣味はなくてよ?」


私だってありません……


思いっきり顔をしかめ、無言で首を横に振っておいた。



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