第三十二.五話 ゲルダのお悩み相談室(前編)
個人的にゲルダの話、書くのが楽しいです(≧∇≦)
レイアウトのご要望等ありましたら、お気軽に感想へ書いてください。
わたしは今、雇い主である男爵様の前に立っている。
ここは彼の書斎。
高級な木材で作られた机に肘をつき、沈痛な表情で額に手を当てている。
「ゲルダ……」
「はい、旦那様」
要件は分かっている。
わたしは内心でため息をついた。
「ほんっとーに、大丈夫なんだよね、ね?
マーレが、私のマーレがあの男となんかあったなんてことないよねー!?」
「旦那様……。「なんか」とは?」
「なっ、なんかって言ったらなんかだっ!そんな……口に出すのも恐ろしいことだよぉー!」
ご主人様は頬に両手を当てて、大きく口を縦に開けている。なんか顔が長く伸びたようだ。
以前街中で同じような表情をしている者を見た時、お嬢様が「あ、ムンクがいる」とおっしゃっていた。貴族のお嬢様の間では、このような表情をムンク、と言うのだろうか。
まあ、旦那様が言いたいことは想像はつく。あんなことやこんなことがなかったかと言うことでしょう?
全く……。
わたしは首を横に振った。
「ありえません」
「ほ、本当に……?」
「絶対に、天地がひっくり返っても、何が何でも、ありえません。
断言できます」
旦那様は救いを求める信者が、女神に出会ったかのような顔をしている。
しかし、はっと我に返る。咳払いをして真面目くさった顔に戻った。
「わけを……断言できるわけを聞こうか」
わたしは平然と言ってのける。
「旦那様のお言いつけ通り、わたしはお嬢様から目を離しておりません。
彼とお嬢様の間には何もありませんでした。断言できます」
「……でも、夜寝るときとか……。
君が寝た後に、その……あったかもしれないじゃないかぁ~~」
とうとう男爵は、顔を覆って泣き出した。
全く……。
再度わたしは首を横に振った。
「わたしは寝る時もお嬢様のお傍を離れてはおりません」
「へ?」
彼は顔を上げた。
「ど、どういうことかな?」
急いでハンカチで顔をぬぐい表情を取り繕って、椅子にきちんと座りなおす。
わたしはゆっくりと言った。
「ヤン様が来てからの半年間、わたしは寝る時もお嬢様のお傍にいました。
お嬢様がベッドにお入りになった後、天井の隠し扉に赴き寝息を確認してから侵入、ベッドの下で夜を明かしていたのです。ベッドの上で何かあればすぐにわかりますわ」
まあ、寝言で「ヤン様好きー」とか、「ヤン様ったらーそんなことしちゃダメですぅ」とか、むにゃむにゃ言ってたのは夢だからいいだろう。言ったら男爵様、また泣き出しそうだし。
男爵は奇跡でも目の当たりにしたかのような顔をしている。
「そ、そうか……そうか!
ありがとう、ゲルダ。ありがとう!
よし、ゲルダには特別報酬を上げよう!
マーレ、パパ頑張っちゃうぞー」
立ち上がって小躍りする男爵様をわたしは生暖かく見守った。
お嬢様。愛されていらっしゃいますね……。




