第三十二話 ヤンの旅立ち
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あっという間に半年が過ぎ、秋が来て……
ヤン様との約束の時が来ようとしていた。
「マーレ、うまく扱えるようになりましたね」
私は魔宝石が4つ付いた剣で、鋼鉄の板を貫いた。
水の魔法の冷却、土の魔法の金属硬化を同時に使ったのだ。
ヤン様は満足そうにうなづくと、息をつく私に言った。
「もうこれで、私に教えることのできるものはありません。
マーレ、免許皆伝です」
冗談めかしてヤン様は言った。
私は一瞬笑顔になるが、すぐに気づいて顔を曇らせる。
「ヤン様……。行ってしまわれるのですか?」
彼は困ったような、しかし優しい笑顔で言った。
「そんな、捨てられた子犬のような目で見つめないでください。
後ろ髪を引かれる思いがします」
彼は西の方、遠くを見つめた。
つぶやくように語り始める。
「一度、故郷に顔を出そうと思っています。あれから6年以上たってしまった。
兄も義姉も、何度も手紙をくれていますし……」
ヤン様、里帰りする気持ちになったんだ。
私は喜んで言った。
「きっとお兄様もお義姉様も、立派な男性になったヤン様に会えば喜びますよ!お父様もお母様もどんなにうれしいか……」
「今週末、出発しようと思います」
私の気持ちは急降下。
シュンとしてしまう。
「……そうですか。寂しくなりますね」
一喜一憂する私に、ヤン様はほほ笑んだ。
「また会えますよ、マーレ。
貴女が私に会いたいと思ってくれるなら」
ちょっと半べそになっている顔を自覚する。
私は無理に笑顔を作って言った。
「はい、ヤン様!
いつか……いつか必ず戻って来てくださいね」
私はヤン様の右手を左手でとり、自分の右手の小指を彼の小指に絡める。
「……これは?」
「約束の印です!」
破ったら針千本です、と心の中で思う。
彼は苦笑して、小指を曲げた。
「ええ、約束です」
ヤン様が旅立つ日は快晴だった。
秋の気持ちのいい空は、どこまでも深く高い。
男爵家の屋敷の前。私たちはここで、最後の別れの挨拶をしている。
「ヤン様、旅のご無事を祈って作りました。お家につくまで、腕につけておいてください」
私は、細い紐を編んだミサンガを彼に渡した。
早速腕につけてくれる。
「ありがとう、マーレ。大切にします」
優しい笑顔。もう会えないかもしれない……。
我慢していた涙が決壊した。
「ヤン様、今までありがとうございました。
私、ヤン様に守ってもらえて嬉しかった……」
ぐすぐすぐすぐす……。
泣きすぎて、鼻水が……垂れそう。
ヤン様が優しく頭を撫でてくれる。
それがまた悲しい……。
「マーレ、泣き止んでください。
笑顔で送り出してほしい……」
ヤン様の困った声。
私はハンカチで顔を拭いた。さりげなく鼻水も。
そして、顔を上げて頑張って笑顔を作る。
「お元気で、また会いましょう……」
頑張って最後まで言えた……。
でも、新たな涙が頬を伝うのがわかる。
やっぱり泣き止めないよぉ~~。
ヤン様が苦笑する。
そして体を近づけるとと首をかしげて……。
ちゅ。
隣に立つお父様の口がガクンと開いた。
存在感薄いけど、そういえばいたのよ、お父様……。
私はキスされた頬を押さえた。
驚きのあまり完璧に涙が止まり、顔がどんどん赤らんでいくのがわかる。
晴れやかにヤン様は笑った。
「では、マーレ、元気で!
男爵様、お世話になりました」
口が開いたり閉じたりしている男爵に一礼すると、ヤン様は歩いて行った。
途中、何度か振り返り大きく手を振る。
そうして彼は故郷へ帰って行ったのだった。
「お父様ー、もうそろそろ出てきてくださいー」
あの後。
お父様は部屋に籠ってしまわれた。
お母様に言われてしぶしぶ夕食の席に着いたけど、ずっといじけていた。
年頃の娘を持つお父様の心は傷つきやすい……。
全く、お父様が心配するようなことは何もないのに、ねぇ?




