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第三十一.五話 ローゼマリーの心のうち(前編)

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皆誤解しているんじゃないかな。


ボクだって、前世では悪役令嬢ローゼマリー・エーレンフリートではなくて、アマーリエ・ベルでゲームをプレイしていたんだからね。






前世で。


ボクは王子様にメロメロだった。


画面に差し出される手が映れば、そこにそっと手を合わせた。恥ずかしながらアップの顔にキスしたことだってある。


でも、当然その時のボクは主人公のアマーリエ・ベルだった。彼女になり切っていた。


彼女の顔は好きだ。日の光の下では金色に輝く、金茶色の髪。表情に合わせてクルクル変わる薄茶色の瞳。


女の子に生まれたら、この顔になりたかった。男性から愛されるであろう、この可愛らしい主人公に。




現世で。


物心ついたとき、名前を呼ばれてもピンとこなかった。


悪役令嬢の、あのローゼマリー・エーレンフリートだと気づいたのは初めて鏡を見た時だ。


その時の落胆を想像して欲しい。


だって、さんざん王子様とボクの間を邪魔したあの(・・)悪役令嬢だよ?美人だけど目の吊り上ったキツイ顔。ゲームプレイ中は憎しみしか感じなかった……。


ハッピーエンドを迎えて、彼女が零落おちぶれるのを胸のすく思いで見ていたのだが、自分がこの立場になればそんな最後冗談ではない。


なんとか回避しないと……。でも、王子様は譲れない!


ボクは努力した。


もともと前世での知識もあったし、順調に運命を変えていると思っていた。


結果、知識も武芸も人並み以上、人望も厚く家族のきずなも手に入れた。


主人公アマーリエ・ベルに勝てる、そう思っていた。


だから会いに行ったんだ、彼女に。


軽い気持ちだった。


実際の主人公はどの程度か?冷やかし半分で会いに行ったんだ。


そしたら、彼女も転生者であった。


その時のボクの落胆を、また想像してみてほしい。


転生者と言う立場は、ボクの一番の強みだったんだ。


これからの展開をすべて把握しているチート能力……。それを主人公も持っているなんて!


また勝てる気がしなくなった……零落おちぶれるのを覚悟した。


でも、まだ足掻あがこう。最後まであきらめるのはやめよう。


二人で話し合おうと思った。


舞台は彼女に用意させた。


そうしたら、予想外に女子会になった。


女子会……前世でボクがあこがれていたものの一つだ。


女子だけで男子の事とかあけすけに話すんでしょ?


男の飲み会は下ネタばっかりで出席するのが苦痛だった。なにせ中身は女子だし。


女子会に行って、思う存分女子トークしたいっ。


ボクはずっとそう思っていたんだ。


それが現世で現実に……。


腹を割って話してみたら、王子様には興味ないと言われた。


え?なに?それホント?


なんか未来に希望が見えた。


ボクは楽しくなった。アマーリエと女子トーク。この空気、悪くない。


本当に友達になれるかもしれない。


しかも、このアマーリエ、前世のジャガイモときた。


彼女はボクが女子トークしたい人物ナンバーワンだったんだ。なにしろ同じ乙女ゲームに血道ちみちを上げる仲だったし。


ボクはうれしくて、笑い転げた。涙が出たのは笑い過ぎたからだけじゃない。


誰も知らないボクの前世。懐かしいあの世界。


それを知る人、それを語り合える人に出会えた!


アマーリエ・ベルはボクにとって、大事な人になった。


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