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第二十一話 アウレール

「アウレール・ファーナー先生ですね。士官学校の……」


ローミが言って、軍人や護衛達に控えるよう手振りで指示する。


この国最高の魔術師の名を聞いて、彼らは恐れて武器をしまうと後ろに下がって場を開けた。


「えっと……。ローゼマリー・エーレンフリート様ですね。

わたしをご存じなのですか?お初にお目にかかりますのに」


彼女はにっこりと笑い、首をかしげる。


「もちろんですわ。有名な方ですもの。

しかもあと1年ちょっとでわたくし達、士官学校に入学いたしますのよ。事前にどんな方が教師になるのかは聞いております」


ゲームの中では何度もお会いしています、とは言えないもんね。


ファーナー先生は、ちょっと顔を赤らめ照れ隠しに頭をかいた。


「いやぁ、そんな有名だなんて……。

あれ、そちらのお嬢様は?」


私を見てる。


慌てて私は自己紹介する。


「お初にお目にかかります、ファーナー先生。

私はアマーリエ・ベルと申します」


ちょっと考えて、彼は破顔した。


「ああ、ローゼマリー様と舞踏会デビューした、あの。お噂はかねがね」


……どんな噂を聞いたんだろう。恐ろしくて聞けない……。


「ところで、どうして先生はここに?」


ローミが聞いた。


「前々からこちらの「海の迷宮」を調査させてほしいと侯爵にお願いしていたのですよ。しかし、侯爵は娘が最初に探検してみたいと言っているので、とお許しいただけなかった。

ところが昨日の夜、明日娘たちが入るので一緒に入るならいいと急きょ連絡をいただいたものですから、とるものとりあえず駆け参じた次第でして」


……侯爵って……。


どうやら男爵おとうさまを超える親バカらしい。


「すぐに出発したのですが、夜の暗い道のためなかなか馬車が進まず、到着が遅くなってしまいました。

侯爵家の別邸に行きましたら、皆さんもう出発されたと聞きましておっかけてきたんです。

いやー、しかしさすが侯爵家の方々はすごいですねぇ。罠をすべて潜り抜けてここまで来るなんて。おかげで、わたしはすべて罠が発動した後の道を通ってきたので楽でした」


軍人や護衛たちは微妙に視線をはずす。何しろ、潜り抜けたのローミだし……。


「うわー、しかし素晴らしい大広間ですね!

海の中にこんなものを作る魔法なんて想像もつかない。

やはり魔族の技術は人間界のものをはるかに上回っています……」


先生は中に入ってきょろきょろ見回した。


そして何気なく……扉を閉めた。


「「「「「ああーっ!!」」」」」


皆の悲鳴が響き渡り、ファーナー先生はびくりと体を震わせた。






「なるほど……、そういうことでしたか」


神妙な顔をして、先生は私たちの話を聞いた。


扉を閉めた後。


そこは阿鼻叫喚の地獄と化した。そしてまた虚脱した空気に返り、私たちは彼に経緯を説明したのだ。


「オレ達一生出られないのかな……」


弱気になってつぶやく者を他の者達が慰めていた。


先生は、とんっと杖を突くと自信満々に言った。


「大丈夫、ここから出ることはできますとも。

私が持っているこの本はなんだとお思いですか?」


そういえば先生は、杖を持つ反対の手に古びた本を持っていた。


皮の装丁そうちょうには金色の模様が入っている。


えへん、と胸を張り彼は言った。


「これははるか昔、この洞窟迷路ダンジョンせいした冒険家の紀行です。

ここに罠のすべてが書かれているのです!」


おおおーっ!


私たちは声を上げ、そして思わず拍手をしていた。


皆の拍手に応えて、先生は一礼する。


「さて、ではどのように脱出するか、その方法を申し上げましょう!」


本の該当ページを開き、読み上げる。


「『私は海を中から望める大広間についた。そこが終点のようだ。扉は勝手に閉じて、開かなくなった。私は途方に暮れた。一両日を過ぎた頃、扉は再び開き、作動した通路の罠がすべて元通りになっているのを見た。帰りは罠はひとつも作動しなかった』

……えっと……あれ?一両日中じゃ駄目ですか?」


私たちはがっくりと肩を落とし、先生は困ったように苦笑して本を閉じた。


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