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第十四.五話 ゲルダとハンナ

またまたゲルダさんの語りです。

今日もストーキングしています。

「ゲルダ、あんたはどうする」


ハンナは黒装束に身を包んでいる。他の護衛たちも同じだ。


様子のおかしいローゼマリー様と共に、アマーリエ様は別荘の外へ散歩へ出かけるという。


ここは、通じる道の途中に砦があるため賊が出る可能性はほぼない。山の方は魔族領に通じているが、人間領に面したこの山に魔族が来ることはない。


よって、危険はない、無いのだが……


「行く。お嬢様が心配だ」


万が一の時、彼らは公爵令嬢を優先するだろう。その時はわたしがアマーリエお嬢様を命に代えてもお守りせねば。


一瞬で黒装束をまとうと、わたしは彼らと共にお嬢様たちに気配を悟られぬよう、後を追った。


侯爵家の護衛はお嬢様たちを等間隔で囲むように、距離を取り見守っている。わたしはメンバーではないので配置の一つを任されることはなく、ハンナと一緒にいた。


「さっきはありがとう、心配事が一つ減ったよ」


隣で同じように身をひそめるハンナがぼそりと言った。


わたしはお嬢様とローゼマリー様の「作戦」をハンナに話した。ハンナ達、侯爵家の護衛を敵に回すのは得策ではない。彼女は、お嬢様が王子様に横恋慕しているのでは?と前回かすかに疑っていたので、危険を排したのだ。


「アマーリエ様への急速な接近、頻繁ひんぱんな会合、不審に思っていた姫様の行動がこれで説明できる。まだよくわからない事もあるけど……

でも、姫様の万難を排しようとする完璧主義にも困ったものだ。姫様が王子様からないがしろにされる事なんてあるはずないのに。なんで「作戦」なんて必要なのかね?」


ぶつぶつ独り言を言っている。


わたしもそれは同感なのだ。あのローゼマリー様を捨てる男なんているだろうか。女のわたしから見ても、美しさは国一番。人柄もよく学問武芸魔法とすべてに秀でていると聞く。


まさに完璧。


策をろうする必要なんてないだろうに。ローゼマリー様は何を心配しているのだろう?


お嬢様と侯爵令嬢は立ち止まった。何か話している。


「……ああああああー!もう、もう、もう~~!!

腹が立つ腹が立つ腹が立つ~!!

どうしてうまくやれないわけ?下手くそっ、役立たず~!」


思わずハンナと二人、びくりと体を震わせた。何事にも動じない訓練を受けた二人が、動揺して気配を消しきれない。距離が離れていてよかった……


「何言ってるのよー!全部ローミの言うとおりにしたでしょ!?

そもそも作戦に無理があるのよ、無理が!王子様がどんなこと言ってくるかとか、あんたの方が予想して当然でしょー!?ちゃんと考えて作戦立てなさいよっ。

この考えなしっ!わがまま娘っ!」


うちのお嬢様も黙っていない……て、お嬢様がキレたところ初めて見た……。


「なんですってー!?ジャガイモが生意気なーっ」

「ジャガイモ言うな、ナルシスト野郎ーっ」

「あーっ、野郎って言ったな、野郎ってーっ。きーっ!許さないんだからっ」


二人は取っ組み合いのケンカを始めた。髪の毛をつかみ、口を引っ張り合う……。


危機感は全く感じられない。わたしたちからしたら、子猫同士のケンカにしか見えない。だから止めないけど……爪や噛みつきが出てきたらさすがにお止めしよう……。


「なんか貴族のお嬢様たちってさ、体面を気にして上辺だけの付き合いしかしないじゃない?少なくともローゼマリー様にすりよってくる令嬢はすべてそうだった。

それがアマーリエ様とはあんなに感情をむき出しにして、取っ組み合いのケンカまで……。ローゼマリー様にとってアマーリエ様は本当の友達なのかもしれない」


ハンナがしみじみと言った。


それを聞いてわたしも思う。確かに二人は本当の友達なのかもしれない。


温かい目で見守っているうち、仲直りしたようだ。二人は別荘の方へきびすを返した。


ケンカするほど仲がいい。


 ……お嬢様、よいお友達ができてよかったですね。


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