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第十四話 魔王

魔王登場〜。

「ローミ、あれは……」

「ええ、すごい魔力ね……」


魔法を使っていないのに、漏れ出る魔力を感じるなんて。


肌が泡立つ。もしかしてこれは……


護衛たちが再び刃を抜いて構える。


とうとう直上まで来た鳥は、大きく羽ばたいた。強い風が吹き付けたので、顔をかばい腕を掲げる。


風がやみ……見れば正面に男が一人立っていた。


夕暮れの日をびた黒い髪は、不思議にも七色の光を返す。白い肌は透けるよう、鼻梁の高い秀麗しゅうれいおもて。一目見ればほうけずにはおられぬ、人とは思えぬ美しさ……。


何より、前世で死ぬ前にやり倒したゲームで見たその顔!


「ついぞ感じぬ魔力の気配に来てみれば……人間共か。その魔力はどうしたことだ?」


紫の目が私を見た。ゲームの画面ではわからぬ、この圧力すら感じる魔力!


「七色に輝く髪、人外の美貌……伝説に聞く魔族の特徴!貴様、魔族だな!?」


ゲルダが叫び、私をかばうよう前に出る。その前に、侯爵家の護衛が音もなく出た。


「あれは魔王よ、皆、手を出さないで!」


ローミが鋭い声で言った。


皆に動揺が走る。


魔王……魔族の長。魔族の中で、最も力を持つ者。


魔王は『トゥルーマイナイト~私だけの騎士ないと様❤~season2』で追加される攻略対象だ。この時代で出会うはずないのに……。


魔王の、魔力を宿す目がローミを見た。そして……その目が軽く見開かれる。


時が止まったようだった。


どちらもピクリとも動かない。


ローミは魔王を見据え、魔王はローミを見つめていた。


そして……


来た時と同じように大きな鳥に姿を変えると、魔王は飛び去った。


しばらく様子を見るが戻ってこない。


「た、助かった……」


護衛の誰かがつぶやいた。詰めていた息が漏れる。


「……とにかく、別荘に戻りましょう。だれか、マーレを背負ってちょうだい。急ぐわよ」


私は体格の良い護衛(男)に背負ってもらった。そして別荘に向かったのだが、途中から記憶がない。気が付いたらベッドの上で、朝になっていた。




トントン。


ドアが鋭くノックされる。ゲルダではない、彼女はもっと静かにたたく。


「マーレ、入るわよ」


ローミだった。後ろに朝食を乗せた盆を持ったゲルダがいた。


「気分はどう?」


ベッドに腰掛けて、彼女は聞く。


ゲルダは手際よくサイドテーブルを用意して、朝食を置いた。そして一礼して出ていく。


「最初から手加減なしに使ってしまったわね。大丈夫?」


昨日の魔力増幅ブーストの事ね。


「大丈夫、もう魔力も戻っているみたい。

でも昨日は驚いたわね、魔王が出て来るなんて」


私は朝食に手を伸ばした。果物のジュースを一口飲み、パンをちぎり口に入れる。お腹が空いていた。


「でも魔王はseason2で初登場する攻略対象よね。今は第一作目にも入っていない時代なのに、どうして出てきたのかしら?」


ローミが言うが、それは分かりきった事。


私は目玉焼きにフォークを突き刺し、一口分取った。


「そりゃあ国境であんな火球が上がったらねー、様子を見に来たっておかしくないわよ。

これが魔王でよかったかもよ?彼、ゲームの中ではなかなか温厚だったし。他の魔族が来てたら本当に皆殺しになっていたかも……」


「またわたくしのせいにするー」


憮然ぶぜんと頬を膨らませるローミ。男なら、大人びた彼女の子供っぽい表情に舞い上がるかもしれないが、私には通じません。


食べ終えて、口をナプキンでふきながら私は言った。


「士官学校に入ってから立つ予定のフラグが立ったり、season2に出てくる魔王に遭遇したり。

なんか私たちが色々するにつれて、どんどん筋書きが狂っていく感じ」


「……フラグで思い出した、また腹が立ってきたわ。協力するって言ってたのに……」


ローミが目を吊り上げる。怒りが収まりつつあったのに、また掘り返してしまった……


これは当分何を言っても思い出してネチネチグチグチ言うに違いない。


一人でぶつぶつ文句を言うローミに嘆息する私であった。


もういい加減にして……


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