表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/98

第十一話 フラグ

王宮のバルコニーは大理石造りでとても広かった。十分ここでも舞踏会ができそうだ。いくつかベンチが配され、夜風に当たって休憩できるようになっている。まだダンスが始まっていない今、ここにいるのは私たちだけだった。


「でもローミにこんな親しい友がいるとは聞いてなかったな。もっと早く紹介してくれればよかったのに」


ベンチに私とローミが腰掛け、正面の手すりにもたれかかるように王子が立っている。金の髪が風になびき、月の光のもとで光を放って見えた。


しかしさらに美しいのはローミだ。


わたしは隣の友人を盗み見る。


まるで月の光が凝縮したようなその姿。まるで月の女神のよう。彼女の美しさは、夜空の月の下でより輝く。


「社交界デビューが終わってから、と考えておりました。

それに、かわいらしいマーレを紹介すると王子様のお心が彼女に向いてしまうのではないかと心配だったのですもの」


にっこりと笑って、ローミは言った。その様子はまったくそんな事を心配しているようには見えない。


「ローミ、そんな思ってもないことを言って。王子様に失礼ですよ……」


私はとがめたものの、ローミの軽口に王子は笑って、


「ひどいなぁローミ。私をクルトのような男だと思っているの?彼よりは節操せっそうというものを持ち合わせているつもりだよ」


たいていの人間はクルト様より節操ありますもんね。


私たちは小さな声をあげて笑った。




「わたくし、お母様さっき呼ばれていたのを思い出しました。御用を聞いてすぐに戻りますので、少しお待ちになっていてください」


しばらくしてから、ローミはそういって席を立った。


……さあ、大作戦のきもですよ。ここからの会話がローミの企て。


私が口を開こうとしたら、王子が先に話し出した。


「本当にあなたはローミと仲が良いのだね」

「あっ……、いえ、恐れ多い事です。身分が違いますし……」


大作戦を始めようとした私は、突然の言葉に気を削がれる。


「いや、少なくともローミはあなたを心からの友だと思っているはず。いまだかつて、私と家族以外に、自分を「ローミ」と呼ばせた事はないのだ」


ここからどうやって作戦通りの会話に持ち込もう……


私は少々焦っていた。予定では「本当に王子様はローミに愛されているのですね。いつも彼女はあなたのお話ばかり。王子様が私に向かって微笑んでくれた、とそれだけで大喜びですのよ。でもこの頃、ちょっと不安に思っているようなのです……あなたに他に気になる女性がいるのではないかと。王子様、ローミの不安を取り除いてあげてくださいませ」と言うつもりであった。


名付けて、『彼女の友達から彼女の本当の気持ちを聞いて、なおかつ彼女の事をお願いされちゃったら、ますます彼女の事を大切に思っちゃうだろう』大作戦。


さっきの王子様の言葉の後、「ローミの本当の気持ち」について言及するには……そうだ、まず彼女の今日のよそおいに触れるのだ。こんなにオシャレしたのはすべて王子様のため。本当に王子様は愛されているのですね……と続けるのだ。


私は勢い込んでいった。


「王子様、今日の彼女は本当に美しゅうございますね」

「え……ああ、ローミは美しいね」


目を細めていう。


……それだけ?もっと褒めないの?


私は王子の言葉が物足りなくて、自分が思っていることを言う。


「本当にきれい……まるで夢のようでした。彼女のたおやかな美しさは太陽の光の下はもとより夜でも輝く、まるで月の光が凝縮して人の形をとったようでしたわ。まさに月の女神。そう思われませんでした?」


私は先ほどのローミの姿を思い出し、うっとりして言った。


王子はしばらく口を開けて黙っていたが、ゆっくりと優しいほほえみを浮かべた。


「本当に……」

「そなたは上辺だけいい顔をして、陰で悪しざまに言う他の令嬢達とは違うのだな」


さて、と本題を切り出したら、ほぼ同時に王子が言った。


って、そのセリフって……


私の脳裏にゲームの画面と音声がよみがえる。イベント画面だ。これって、王子様との親密度をあげると初めて迎えるイベントが終わった後に言われるセリフだよね……フラグだよね?


王子様は優しい眼差しで私を見ている。


あれ?どうしてこうなった……。


「あ、あの。王子様……王子様は本当にローミに」


もう流れをぶった切ってでも作戦通り言ってやろう。


私がそう決意した時、にわかに大広間がざわついた。音楽隊が音出しをして、音程を合わせている。


「ああ、そろそろダンスが始まるようだね、中に戻ろうか」


もうだめだ、引き留められない……


私はふらふらと広間に戻った。


バルコニーから広間へ入る窓のカーテン。その陰にローミはいた。じっとりと横目でにらんでくる。


「あとで反省会よっ」


小声で言うと、王子と最初のダンスを踊るべく小走りで去った。


それからの事はよく覚えていない。


ダンスに誘ってきた殿方と適当に踊り、逃げるようにして帰ってきた。


反省会……私へのリンチ会ではなかろうか?恐ろしすぎる……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ