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第九話 舞踏会

舞踏会は王宮の大広間で行われる。


主役は皆が集まってから、正面の扉を開けて登場するらしい。


「主役の登場はローミ一人の方がいいと思うけど……私はみんなと共に広間で待ってるわ」


恐ろしい……上級貴族も待ち受ける中、この派手な友人と共に広間に入っていくのは勇気がいった。


今日のローミは光の女神のようだった。輝く銀色の髪をゆるく波打たせてから結い上げ、目の色と同じサファイアをちりばめている。ドレスは白地に細かな金糸の刺繍が施され、金色に見えるドレス。スカートのストンとしたラインは、大人っぽいローミによく似合っていた。


「何言っているのよ。あなたも主役なのよ。一緒に登場しないでどうするのよ。

もう覚悟を決めなさい。いくわよ」


そう言うと颯爽さっそうと歩いていく。


ああ、本当に覚悟がいるんだよー。私は悄然しょうぜんとその後をついて行った。




「ローゼマリー・エーレンフロート侯爵令嬢、及びアマーリエ・ベル男爵令嬢、ご到着されました」


従者の声で扉が開け放たれる。大広間にいた人間すべての視線が集中した。


ローミは意に介することなくどうどうと入場し、人々からはため息とも歓声ともつかぬ声が漏れ出た。


私はさりげなく数歩下がったところを歩いていたのだが、彼女に気が付かれ横に並ばれ腕を取られた。


ああ……目立つ。


貴族たちが「あれが男爵令嬢……」「侯爵令嬢と共になど……」とか、これ見よがしに言っているのが聞こえるわー。


私にとって、いや男爵家にとっていたたまれない空気の中、両親たちと合流し王都王妃の前に進み出た。


「王様、王妃様。

 このたびは、未熟なわたくし達を素晴らしい舞踏会にお招きくださった事、光栄の極みでございます。

 ライムレヴィ王国のさらなる繁栄を神にお祈りいたします」


ローミは美しい声で口上を述べた。


次は私。緊張を押さえて、考えてきたセリフを懸命に思い出す。


「ローゼマリー様と共に、舞踏会にお招きくださいました事、身に余る光栄にございます。

王様、王妃様のさらなるご健勝を神にお祈りいたします」


 かまずに言えた……


 王様と王妃様は鷹揚にうなづき、


「二人とも立派なレディーになって。侯爵も男爵も鼻が高い事であろう。

初めての舞踏会、固くならず今宵はゆるりとすごされよ」


王様からお言葉をいただき、これで社交界への出入りを許された事になる。


侯爵家、男爵家一同うやうやしく一礼し、周りから拍手が巻き起こった。


はー、第一関門突破……


王様たちへの挨拶が一番緊張したのだ。しかし、まだまだ第二、第三関門が待ち構えている。これから貴族たちへの挨拶回りだ。まずは貴族位第一位、コルネリウス公爵家。取り巻きの貴族たちと大広間の一角を占めている。


私たちは歩み寄るとスカートをつまんで一礼した。


「おお、ういういしいご令嬢達の登場だね。ローゼマリー、幼い頃より人形のようにかわいらしいお子であったが、美しく成長されたな。

アマーリエ嬢は初めてお目にかかるね。これはかわいらしいお嬢さんだ」


コルネリウス公爵は気さくに話しかけてくる。


彼は攻略対象の一人、クルト・コルネリウスのお父さん。ゲームでのクルトは、女好きの軽薄男子だが実は情熱的で、主人公に出会ってすべてを彼女一人にささげる。熱い口説き文句に、画面の前で一人胸をキュンキュンさせていたことを懐かしく思い出しながら、


「はい、お初にお目にかかります公爵様。アマーリエ・ベルにございます。

この度はおこがましくもこの場にまかり越しました事、恐縮の極みでございます」


「アマーリエはわたくしが妹とも思う、大切なお友達ですの。わたくしが無理を言って、今回一緒に出席してもらったんですわ。

だって、どうしても二人でいっしょに晴れの舞台に出たかったのですもの」


邪気のない顔で、にっこりと笑んだローゼマリーは皆に聞こえるよう大きな声でそう言った。


これが男爵家に矛先が向かないようにする、と言ったローゼマリーの手か。


一応他の貴族たちは納得したような、けむに巻かれたような微妙な顔でこちらをちらちら見ている。


公爵はそのことについて何も思っていないようで、「ローゼマリーはいつも強引だなぁ」と笑っている。彼にとってこれくらいの彼女の我儘わがままは許容範囲なのだろう。


「ところでクルトはどこに行った?まったく、またどこぞの令嬢の尻でも追い回しておるのか」

「あなた、下品ですわ」


 公爵夫人がやんわりと夫の言葉を諌めた。


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