実現
「はぁ……」
ベッドで横になり今日の出来事を振り返ると思わず溜め息が出る。
何かあって気苦労しているわけではない。逆に、何もなくて悩んでいるのだ。
高校生になっても恋愛するわけでなく、部活に励むわけでもない。刺激的な日々を送れると夢見ていた中学生の時と変わらない退屈な日々を繰り返しているだけだ。RPGでいう坦々とレベルアップ作業を行っているかのような感覚だ。これとの差異は成長したのはレベル(年齢)だけというところか。こんな活気のない生活に嫌気が差すのは当然だろう。あぁ、せめて夢の中だけでも刺激的な体験をしてみたいものだ。しかし見たい夢を見られないのが夢。夢の中で夢の内容をコントロールでもしない限り難しいだろう。
……ん?そういえば夢を夢と自覚しながら見ることが出来る方法があるっていうのを聞いたことがあるな。もしやこれが出来れば自分で理想の空間、状況を作り上げることによって夢で現実の問題を解消出来るんじゃないか?つ、つまり、学校にテロリストがやってきてクラスのマドンナが人質にされるがハリウッド映画張りのアクションを決めて彼女を助けハッピーエンドみたいな夢のようなことが出来るってことか!?まぁ、夢だけど。
興奮を抑えながら早速スマートフォンを手に取り調べてみる。ふむふむ、明晰夢っていうのか。でも、予想以上に面倒くさいな。どうやら訓練を重ねて夢に慣れる必要があるらしい。
そんなことをしている間に時計の針は午前1時を回っていた。はっと気づいたように一気に眠気が襲ってくる。
俺は普段通り眠りに就いた。
◆
重い瞼を上げると漆黒の闇に光が差し込み次第に世界が色付きはじめる。
また今日も退屈な日が始まる、と思った瞬間目の前の光景に愕然した。
「な、なんだこれは」
小鳥の囀りの目覚まし音、雑草のようにフカフカなベッド、囲むように描かれた木々、天井にはコバルトブルーの絵の具が隙間なく塗られている。……現実逃避しようとしたが限界のようだ。家の中とは思えないほどの新鮮な空気がしやがる。現実……なのか?俺は確かにベッドで寝たはず。いや、考えなくたってわかるはずだ。あまりに非現実すぎる。だが、それ以上に現実だ。景色も音も匂いも何もかも。生々しすぎるほどに。
「気が付いたようですね、ご主人様。ここはあなたの夢の中ですよ」
振り向くとそこにはメイド姿の女の子が微笑みながら立っていた。