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始まった神の裁き

 明らかに殺人である。そんな行為をこれだけの衆目監視の下に行った訳だ。こいつらが法の裁きにかけられるのは時間の問題だと俺は確信した。

 二人は再び歩き始めた。その先にいる二人に吹き飛ばされた警官たちは、呆然としている。そんな警官たちより、動きが早かったのはここの組員たちの方だった。


 「なんじゃ、こりゃあ!」

 「おどれら、ぶち殺したる!」


 新たな男たちが窓から顔を出し、銃器のようなものを構えた。

 やくざたちは引き鉄を引く事を躊躇しなかった。

 何発なんてものではないほどの無数の銃声が響く。

 蜂の巣どころじゃない。それだけの銃弾をその身に受ければ、大半の肉を吹き飛ばされ、人の体をなさないのではないかと言うほどの銃声である。やがて、それほどの銃声も止んだ。


 「どう言う事だ?」


 銃声が止むと、やくざたちのそんな声がしている。

 銃撃されたはずの二人は何事もなかったかのように、平然としている。

 カメラの映像が二人の数m先の路上にズームされた。

 そこに転がっているのは無数の銃弾。

 ここのやくざたちが撃ち放った銃弾は二人に届かず、その数m先の路上に転がっていたようだ。

 どうしてなんだ?

 やくざたちの狙いが外れていたのか?

 狙いが外れていたのなら、地面にめり込んでいるはずである。

 俺がその理由に頭を悩ましはじめた時、女が両手を上にあげて、轟かんばかりの大声を上げた。


 「さあ、神の裁きの時間だ。

 神は罪人たちに死の裁きを下す!」


 その言葉はここのやくざたちを怒らせるのに、十分な挑発だった。窓から顔を出していた男たちは、怒鳴りながら再び銃を構えた。


 「おどれらぁ、ぶち殺したる!」


 再び銃声が通りにこだました。

 銃声とやくざの怒声の中、二人は平然と立っている。

 女が何かを促すかのように、横の男に視線を向けた。

 男はそれに応えるかのように、右手を身体の横に突き出した。

 そして、その右手をゆっくりと頭上に、そして左側に半円を描くように移動させた。

 ついさっきまで、銃弾を降らせていた窓から、銃弾に変えて赤い液体が降り注ぐ。

 窓から銃を構えていたやくざたちの首が次々に落下して行った。


 「見よ!

 もうすでに、我らを狙う者いない。

 この建物の中は屍ばかりだ」


 女がそう言って、建物の窓を指し示す。

 そこにはいくつもの鮮血に塗られたいくつもの窓ガラスがあった。


 「きゃー」

 「わぁー」


 やじ馬たちの一部があまりの出来事に逃げ始めた。それにつられ、逃げ始める人々。


 「神だ!」

 「正義の神だ!」


 逃げ出す人々とは別に、二人を崇める声が聞こえてきている。


 「神だ」


 そんな声を上げ、走り寄る一部の群衆。


 「待て!お前たち!」


 そう叫んで、間に入る警官たち。

 神と警官。

 走り寄る群衆は神を取った。

 警官たちはその群衆の流れを止める事は出来なかった。

 走り寄る群衆。その先頭を走っていた人達が、見えない何かに当たったような音を立て、のけぞる。そこをさらに興奮した人達が押し付ける。


 「く、く、苦しい!」


 二人のところ数mで何人もの男たちが、ガラスに顔を押しつけた時のような苦しそうな顔で人の壁を造っているのが、ズームアップで映し出された。

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