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優奈の危機!

 駅から俺と優奈の家に続くその道は、細く車が一台通るのがやっとの幅だ。道は時折鈍角に曲がり、道の両横には昔からの民家が立ち並んでいるが、人がいるのかどうかも分からないくらい、人の気配は伝わってこない。

 そんな道を歩きながら、優奈は俺の隣で相変わらずスマホをいじっている。

 俺はそんな優奈の邪魔をせず、黙って横を歩いていた。俺たち二人の足音くらいしか聞こえてこない空間に、原付か何か小さな車のようなエンジン音が聞こえ始めた。その音が少しずつ大きくなってきた。きっと、その先の曲がった道の先からこちらに向かって、何かがやって来ているのだろう。

 この道幅では、向かってきているのが車だったら、二人横に並んでいてはかわす事はできない。俺は優奈を道の端に寄せて、俺も端に寄った。俺が先頭で、角を曲がると一台のグレーっぽい原付が目に入った。乗っているのは黒っぽいTシャツを着た20代後半くらいの男である。相手が原付なら、ここまで端による必要も無い。俺が再び優奈の横に並んだ。

 その時、ヘルメット姿の原付に乗った男が握っていたハンドルから、左手を離して胸のあたりで水平に構えた。

 なんだ?

 そう思った時、その男はその左手で何かを切るような仕草をした。

 何のつもりだ?

 ちょっと、頭がおかしいのか?

 だとすると関わらないのが一番である。俺は優奈を俺の背中に回して、男に注意した。優奈は怪しげな男が近づいてきている事に気付いていないようで、スマホを触りながら歩き続けている。

 男との距離はもうすぐ目の前。

 男は再び左手で何かを切るような仕草をした。

 まただ?

 そう思った時、男の原付は俺たちの目の前に来ていた。俺は優奈と男の間に体で壁を作って、優奈を守っていた。そんな俺と男の目があった。


 「なぜだ?」


 ヘルメットの下の男の顔は驚きの表情で、そう言っていた。

 俺は振り返って、男の後姿を見送った。男はそのままその先の角を曲がり、姿を消した。原付のエンジン音も消え去って行った。

 危ない奴。

 戻っては来なさそうだが、油断はできない。優奈は今あった出来事に気付いちゃいない。ある意味、幸せな奴である。

 俺はあたりに注意しながら、再び家を目指しはじめた。この先の坂を上って、曲がる。すると下り坂になる。その先に広がる新興住宅街。ひしめくように建っている住宅の中に俺と優奈の家がある。


 「じゃあな」


 俺は自分の家にたどり着くと、優奈にそう言って、手を上げた。優奈がスマホから目を離して、俺を見てにこりとして頷く。


 「うん」


 その笑顔だけで、ずっと俺にかまうことなくスマホを触り続けていた事も許せてしまう。俺って、ばか?

 鍵を開けて、俺が家のドアを開く。横に目を向けると、ほんの何mかの距離だと言うのに、スマホを触りながら歩いている優奈はまだ家の玄関にたどり着いていないではないか。そんな優奈の後姿をくすっと笑って、俺は自分の家に入って行った。


 「ただいまぁ」


 そうは言ってみたものの、薄暗い家の中から返事はない。俺の家の両親は共働きだ。俺は靴を脱ぐと、狭い廊下を通って、階段を目指す。


 「きゃー。たす」


 その時、俺の耳にそんな声が聞こえてきた。優奈の声だ。そう感じた俺は手に持っていた鞄を投げ出して、優奈の家を目指した。

 金属光沢を放つ濃い茶色の金属と模様が刻まれたガラスで造られた優奈の家の玄関のドア。そのドアから突き出ているやはり濃い茶色の金属製の取っ手に手をかけた。ドアの取っ手を押し下げて、ドアを引っ張ってみる。鍵がかけられているようで、かすかに動いた程度で、開こうとしない。


 「優奈ちゃん、優奈ちゃん」


 俺は叫びながら、ドアを叩いた。中から優奈の返事は無い。叩くのをやめて、中の気配を探ってみた。しかし、中の様子は分からない。

 きっと、助けを呼べないくらい大変な状況なのかも知れない。俺は一歩下がって、優奈の家をそして、周りを眺めて様子をうかがった。優奈の家の近くの路上に止められているグレーの原付。全く一緒かどうかまで自信はないが、さっきの危ない奴が乗っていたのに似ている。

 危険すぎるじゃないか!

 俺は急いで、家に戻った。

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