白銀クロウ
「都市伝説なんて、信じていない」――
九条蓮はそう思っていた。しかし、街で続く失踪事件、夜空に漂う黒い羽根、そして放課後の旧時計台が放つ異様な影。
ほんの好奇心が、彼らを“何か”の目覚めへと導く。
今、五人の少年少女の前で、長く眠っていた力が目を覚ます――白銀クロウ、復活の瞬間。
四時間目の数学が終わった瞬間、教室の空気は一気に緩んだ。
「なあ蓮、帰りゲーセン寄るか?」
後ろの席から椅子を蹴る音。
九条蓮は、机に突っ伏したまま顔だけ横に向けた。
「今日は無理」
「え、またかよ」
真壁陸が不満そうに口を尖らせる。
「最近付き合い悪くね?」
「別に」
「絶対なんかあるだろ。彼女か?」
「違う」
「じゃあバイト?」
「違う」
「まさか隠れて世界救ってる?」
「それなら少しは面白かったかもな」
蓮は小さく息を吐いた。
窓の外では、灰色の雲が空を覆っていた。
春の終わりだというのに、今日は妙に寒い。
数日前から、街では失踪事件が続いていた。
行方不明者は七人。
全員、夜に一人で歩いていた。
そして、現場には必ず黒い羽根が落ちていた。
「また変な噂が広まってるんだろうな……」
蓮は心の中で呟いたが、胸の奥がぞわりと冷たくなるのを感じた。
放課後、いつもの帰り道。薄暗い路地を通ると、街灯の光が妙に揺れていた。
旧時計台が不自然に影を落としている。最下層には、白銀の鎖で縛られた棺があるという。誰も近づかない――都市伝説として囁かれている場所だ。
蓮と仲間たちは足を止める。棺の存在が、街の空気をわずかに歪めている。
「……見に行く価値、あるんじゃないか?」
陸が小声で囁く。最近の失踪事件も頭をよぎった。
「黒い羽根の正体、確かめてみたい」
蓮も思わず口に出していた。普段は冷静な自分だが、この都市伝説と事件の関係を無視できなかった。
「誰も近づかないなら、俺たちが行ってみようぜ」
軽口を叩く陸に、仲間たちは小さく頷く。怖い気持ちはある。それでも好奇心が勝り、自然と三人は最下層への階段に足を踏み入れた。
五人が最下層の闇に足を踏み入れると、空気は一段と冷たく、古びた石の壁から湿った匂いが漂う。
階段の奥、かすかな光に照らされた棺の輪郭が、静かに存在感を放っていた。
「……ここか」陸が息をひそめる。
棺の周囲には黒い影が漂い、まるで生き物のように床を這う。
風はないのに、白銀の鎖がかすかに揺れ、金属の低い軋む音が耳に届く。
「……どうする?」美緒が震える声で訊いた。
蓮は深呼吸し、手を握る。迅と紗良も互いに視線を交わす。
心の奥底に、恐怖と同じくらいの好奇心が湧き上がっていた。
棺の前に立つと、陸が小さく手を差し出す。
「……みんな、手をつなごう。……無事でいられるように」
五人は自然と手を取り合い、微かに息を合わせる。
誰も名前を知らない何かの存在に、祈りを込めるように。
手から、微かに血の気が五つの指先から棺の方向へ流れるような感覚があった。
すると、光が闇を裂くように強まり、棺の上空で白銀の烏の形をした影が現れた。
翼を広げ、闇を切り裂くその姿は、圧倒的な存在感を放つ。
鎖が震え、ついには砕け散る。金属音と共に、棺の蓋も裂けるように粉々になった。
そして――
「カァ……」
「クハハハハハ……!! クハハハハハ……!!」
闇の中、最初に見えたのは赤い双眸。
その奥で、白銀の髪が揺れる。
やがて棺の中から現れた顔は、人間ではなかった。
骸骨。
だがただの骸骨ではない。
白銀に輝く骨格はまるで甲冑のように鋭く、美しく、深紅の瞳だけが不気味に燃えていた。
五人の視線の先に、
圧倒的な存在
――白銀クロウ
それは、ゆっくりと立ち上がった。
空気は一瞬、凍りついた。恐怖と驚愕、そして説明のつかない畏怖。
蓮も、美緒も、迅も、紗良も、陸も――
ただその姿に息を呑むしかなかった。
白銀クロウの復活と共に、五人は知っていた――何か、とんでもない力がこの街に目覚めたのだと。しかし、その正体も名前も、まだ誰も知らない。
彼らの目の前に現れた白銀クロウ――その正体も、力も、まだ誰も知らない。
だが、街に潜む闇は、これで目覚めただけでは終わらない。
この物語は、ほんの始まりにすぎない。
次に何が起きるのか、五人は、そしてあなたは――目を離せない。




