第十七話 〈商業都市ヴァルグレイア〉
何とか街に入れた。
最初に行くべきは冒険者ギルドだな。
ついでにギルドで夕食も摂れるしな。
しかし、少し懐かしいな。
昔ここに来た時の《光剣の誓約》はC級パーティだったため、第二階層までしか行けなかった。
あの頃は純粋に冒険を楽しんでいたのだが。
「ガルド、ギルドの場所は?」
「中央広場付近です。この道を真っ直ぐ行ったら出れますよ」
流石に5年程前に訪れただけのギルドの場所は覚えていない。
だが、中央広場は少し覚えている。
変わっていないのだろうか。
明日、レアと散策しても良いかもしれないな。
数分歩き、大きな広場へと出る。
夜だというのに、人で賑わっている。
照明用魔道具がそこかしこに設置されており、昼かと勘違いしてしまう程には明るい。
「ギルドは……ああ、あれか」
ここまで来たら思い出した。
それに、ギルドの竜の紋章が見える。
大都市であるのに、100メートル四方を優に超える程大きい。
それほどまでに〈ヴァルグレイア〉において冒険者ギルドが賑わっているという事だろう。
「王都と同じくらいでけえな。この感じは久しぶりだ」
「カイさんって王都から来た冒険者だったんですか……。そりゃあ強いわけですね」
「ああ、まあ、な」
俺単体の冒険者ランクはCなので少し誤魔化して答える。
そういえばレアのランクはどうなのだろうか。
「なあ、レア。さっきのカード見せてくれねえか?」
「良いけど、別に特に何も書いてないよ?」
スッと取り出して渡してくれた。
自分のと見比べてみるが、文字の形式や書かれている事項などが少し異なっている。
レアのランクは……Bか。
まあ、控えめに登録したんだろうな。
「ありがとう。そうだ、ついでに証書更新するか? そうしたら俺とパーティも組めるだろうし」
「うん。カイは絶対誰にも渡さないから」
「はは、別にんな事しなくてもどこにも行かねえよ」
恐らく固定の絆の事だろう。
確か、昔は結束印という名称だったはずだ。
何故かは知らないが、色々と制度が変わる時に一緒に変わったらしい。
「知ってる。でも、誰にもつけ入る隙を与えないから」
そんなところも可愛いなと頭を撫でつつ、ギルドの中へ入っていく。
《宵哭きの魔獣 ノクスフェル》の依頼を剥がしてから総合受付へ向かう。
「すまない、この依頼なんだが、既に達成してしまったから取り下げは出来るか?」
「承知しました。依頼主はガルド様となっていますが……」
「俺がガルドだ。これが〈グレイヴ村〉の長の証と、冒険者証書だ」
そう言いながら首にかけたアクセサリーと冒険者証書を取り出して渡す。
村は基本的に近くの大都市に管理が任されており、大都市の管理長が村の長を決めている。
冒険者証書は身分証として有用なので、基本的に成人すると取る人が多い。
「……はい、確認が取れました。ガルド様で間違いないですね。では、撤回処理しておきますので、報告ありがとうございました」
「あ、すまん。もう一つ頼んでも良いか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「こいつの証書を更新したいんだが、今からでも出来るか?」
レアが無言で受付に証書を置く。
係員は少し驚いたようにするも、すぐに平静を取り戻して返答する。
「承知しました。えーっと……これは、57年前に登録されたものですね。お名前はレア様で間違いないですか?」
「うん。すぐ出来るの?」
「はい。数分お待ち頂ければ可能です。ただ、ここまで古いものだと更新料が少し高くなってしまいますが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、平気だ。幾らだ?」
「金貨1枚です。では、更新手続きをしてきますので、少々お待ちください」
別に金貨1枚くらいなら払える。
ただ、所持金が少なくなってきたな。
何かしらを売って金にした方が良いかもしれない。
そういう風に考えていると、レアが少し申し訳なさそうにルクスに話しかける。
「私、一応人の国のお金持ってるよ……? 昔のだから、今も使えるか分かんないけど……」
と、不意に袋を取り出して渡して来た。
「重! どんだけ入ってんだこれ……!?」
軽く受け取ろうとしたら身体が持ってかれた。
レアの顔を見ると頷いていたので開けても良いのだろう。
紐を解いて開けると、そこには金貨が数十枚どころではない量が入っていた。
あまりの事に思考が止まる。
「は……? これ、全部金貨かよ……。しかも、ちゃんと旧制のやつだ……」
たまに見るやつと全く同じだ。
旧制の金貨は今も効力を失っていないため、全部使える。
こんな金額は、パーティ共有のでしか見た事が無い……。
「んー、まあ、これはお前の金だからお前が好きに使った方が良い」
流石にこの額を受け取る気にはなれない。
しかし、何故これだけの金貨を持っていたのだろうか。
「でも、カイは私のものだから、私はカイのものでしょ? つまりそれは私のものであり、カイのものだよ。だから、カイにあげる」
金貨袋など興味なさげにそう言い放つレア。
それでもカイは全てを受け取りはしなかった。
「いや、全部は要らない。そうだな……。10枚だけ貰っておく。後は返すから、自分で持っててくれ」
確かに金は必要ではあるが……。
だが、金を工面する必要が無くなったというのは大きい。
金貨10枚もあれば、半年は何もしなくても良い程である。
「むぅ……。分かった。じゃあ、今度何かあげるね」
「そこまでして金を使わなくて良い……。まあ、自分の好きな様に使えれば、それで良いが……」
そうこうしている内に更新が終わったようで、係員が二枚のカードを持ってくる。
「こちら旧制の証書はお返しいたします。こちらが現行の証書となっています」
「ありがと。じゃあ、カイとパーティ組みたいんだけど、出来る?」
「はい、お二人の証書を頂いてもよろしいですか?」
レアと俺の分の証書を渡す。
カードを重ね合わせ、呪文を唱える。
カードが光り、俺とレアの間で光が交差し、纏わり、カードへ戻っていく。
「完了いたしました。要件は以上でしょうか?」
「ああ、色々と手間かけてすまなかったな。また頼む」
「またのご利用をお待ちしております」
ギルドでやる事は終わったので、夕食にする。
「ガルド、明日の昼に〈グレイヴ村〉へ向かう。お前はこの後どうするんだ?」
「俺は一度村に戻ります。道案内が必要でしたら明日も来ますが、どうしますか?」
「いや、大丈夫だ。後、一人で二頭持って帰れるか?」
「出来ますが……。不要なんですか?」
「ああ。走った方が速いからな」
「ああ、成程……。分かりました。では、また明日」
そう言って一礼し、ギルドを出ていく。
「んじゃ、レア。飯にするぞ」
「うん。こういうところで食べるの初めてだから、ちょっと楽しみ」
「普段何食って生きてたんだよ……」
あれだけ金があるのに、街で飯を食べた事無いとかどんな暮らしだったんだ……。
「森にある実とか、魔物の肉とか。私、高位森精と人のハーフだから、寿命も長いし、森での暮らし方も知ってるよ」
高位森精……!?
王国主催の祝賀会に招かれた時くらいしか見た事が無いぞ……。
「お前……そんな高貴な人だったんだな……。ぞんざいに扱って、なんかすまん」
「そうだよ? でも、私は闇魔法の禁忌に触れて幽閉された。そして《嫉妬》を手に入れて、抜け出して来たの。さっきのお金は、最後まで私に付き従ってくれたお婆様に貰ったものだよ」
成程、そりゃあれだけの金額を持ってるわけだ。
しかし、闇魔法も使えたのか。
禁忌に触れる程とは……。
実は結構頭が良いのかもしれない。
「レアは、俺なんかより大変だったんだろうな」
「そんな事無いよ。カイだって、同じだけの苦しみを味わってる。そんな貴方だからこそ、私は貴方を手に入れたかったの」
先日にも聞いたような言葉。
俺も、そんなレアだから信じる事が出来た。
レアだけが、俺の信用出来る人。
「だから、カイが私を幸せにして? 私もカイを幸せにするから」
共依存に近しい言葉。
それは、今の俺にとっては望ましいもの。
「……当たり前だ。二人で、この世界を平和に過ごそう」
「うん。じゃあ、ご飯食べよ?」
話が落ち着いたので夕食を摂る。
初めて見る料理に、レアが色々と悩んでいるのを微笑ましく眺めていた。
ちなみに、さっさと寝たかったが無理だった。




