第十六話 不要な感謝
日が暮れ始めている。
ノクスフェルと戦ったのは夜だったはずなのに。
「……レア。そろそろあいつらんとこ行くぞ」
「えぇ……。もうちょっと休ませて……」
お前が始めたんだろうが……。
〈ヴァルグレイア〉にも行かなければならないし、時間が無い。
「んな事言ってねえで、しょうがねえだろ。さっさと服着ろ」
「んぅ……。分かった……」
渋々服を着出す。
そういえば、レアの服は変わっていないが、何回も戦闘で傷ついているはずだ。
どうなっているんだ?
「なあ。レアの服は何でボロボロになっても直るんだ?」
「これは私の魔力を実体化させた物だよ。昔、習ったの」
少し懐かしむように教えてくれた。
嫌いな過去の中にも、大事な思い出があるんだろうな。
「へえ、便利だな。……ほら、行くぞ」
レアに手を差し伸べ、立ち上がらせる。
少し微笑んで手を取った。
「ふふ、ありがと」
テントをしまい、ガルドらの拠点へと向かう。
少し距離があるため、ルクスは急ぐために一つの手段を取る事にした。
「なあ、レア。ちょっと止まってくれるか」
「ん、どうしたの? 忘れ物?」
「いや、ちょっと気を付けろよ。よっと――」
「!?」
レアを抱き上げて走った方が早いと思い、さっと抱きかかえる。
突然の事に吃驚したレアは目を少し見開いた。
「ど、どうしたの……?」
「こっちの方が早いからな。ちゃんと掴まっとけよ」
「う、うん……」
《怒気解放》を発動させ、思い切り走る。
レアを守るように魔力で覆っているので風などは防がれている。
レアがルクスをぎゅっと抱きしめ、顔を赤らめながら小声で何かを言っているが、ルクスには風切り音で何も聞こえていない。
そうして数分程で拠点に着いた。
「ほら、着いたぞ。気を付けて降りろ」
「……え? も、もうちょっとだけ……」
何を我儘な……。
まあ、しょうがない。
これくらい良いだろう。
仕方ないのでレアを抱えたままガルドらを呼ぶ。
「おい、ガルド! いるか!」
大声で中に呼び掛けると、バタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
「カイさん! 魔物は、村はどうなったんですか!?」
「ああ、ノクスフェルは殺した。村に被害は出ていないはずだ」
「本当ですか……! 俺達の〈グレイヴ村〉は返って来たんだ……!! お前ら、英雄様の来訪だ、全員出てこい!」
ガルドが手下を呼ぶ。
しかし、英雄様など気恥ずかしい。
そんな大層な呼び方はしないでほしいものだが。
ガルドの呼び声に前の8人、それに女子供までもが出てきた。
ここにそんなにいたのか……。
「……そういえばお二人、随分と仲良くなりましたね?」
ガルドの問いに少し困惑し、今自分がレアをかかえている事に対してだと気付く。
「まあ、色々あってな。よっと」
レアが恥ずかしそうにしているので、さっと降ろしてやる。
こうなるのは分かっていたのだから、さっき降りれば良かったものを……。
「で、ノクスフェルに関してだが、死骸の方は俺の方で回収しておいた。村に戻っても問題は無いだろう。冒険者ギルドの方には今から報告しに行くから、誰か着いてきてくれ」
「本当に……本当に、私達の村は取り戻せたのですか?」
ガルドの隣に子供を抱えて立っていた女が聞いてきた。
「村がどうなってるかは知らん。ただ、魔物は殺した。その事実だけじゃ不足か?」
「いえ、そんな事は……。ありがとうございます……。心より感謝申し上げます……」
女が頭を下げるのにつれられ、全員が俺に対して礼をしてくる。
……クソ。
別に、俺は人助けがしたかったわけじゃない。
「皆嬉しそうだよ。良かったね、ルクス」
恥ずかしさから俯いていたレアがそう言ってくる。
……まあ、そうだな。
結果として人の為になっただけだ。
その事実は、受け入れても良いだろう。
「……ああ。だが、レアがいなければ俺は死んでいた。レアのおかげで俺は生きている。ありがとな」
真っ直ぐに感謝を伝える。
少し困ったように微笑んでいた。
その表情が、瞳が、ルクスにはとても可憐に思え、つい抱き寄せる。
「まあ、そんなわけだ。俺は一度〈ヴァルグレイア〉に行く。明日の昼、報酬を受け取りに来るから、ああ、お前で良いや。ガルド、お前も来い」
ギルドへの報告をするためにガルドを連れて行く事にする。
拒否権は無い。
「分かりました。では、退避させておいた馬がいるので、厩へご案内します」
ガルドの案内を受け、厩へと向かう。
簡素な小屋に馬が二頭いた。
「ああ、そうだ。一頭はマルクが使ってるんだった……」
「俺とレアが一頭に乗れば良いだろ。日が暮れない内にさっさと行くぞ」
「すみません、では」
馬が心なしか怯えているような気がする。
だが、そんな事は気にせずにさっと馬に乗り、〈ヴァルグレイア〉を目指す。
「道案内は頼んだぞ」
「お任せ下さい」
そのまま30分程馬に揺られながら走り、大都市が見えてきた。
〈商業都市ヴァルグレイア〉。
王都から遠く西に離れているが、西側諸国との貿易により大都市となった。
【地下迷宮ノクティルム】や、【王立大書庫シュターツ・ビブリオ】なども有名だ。
門が見え、門番が数人立っているのが見える。
そのまま門の前まで行く。
「馬は隣の厩へ。身分証明書の提出をよろしくお願いします」
「ああ、冒険者証書で頼む」
馬から降りて魔導石から証書を取り出し、見せる。
ガルドも同じ様に証書を出す。
しかし、レアは固まっていた。
「……おい、レア? もしかして、お前……」
降りるのを補助しながら小声で聞く。
「……カイ、ごめんね。私、持ってない」
てへ、と少し茶目っ気を見せながらふざけて言っているが、状況はそれを許さない。
「やばい……。どうしようか。なんか、昔のでいいからねえの?」
「……あ、そういえば……」
そう言いながら、ふっと何かを取り出す。
お前、空間収納魔法使えたのかよ……。
「これ、で、お願いします」
そうぎこちなく、門番に良く分からないカード? のようなものを渡す。
「申し訳ありませんが、これは一体……?」
「えっと、昔……50年くらい前に作った冒険者ギルドの証書、なんだけど……」
困ったようにこっちに視線を向けてくるが、それどころではない。
50年前……!?
「レア、お前、何歳だよ!?」
一応小声で聞いてみる。
「女性に年齢は聞くべきじゃないと思う。……けど、大体100歳くらい。多分。……分かんない、もっとかも」
自分の年齢も覚えてねえのかよ……。
てか、何でそんな見た目若いんだよ。
ていうか100歳超えてる割には精神年齢が――
「いってぇ!」
腕を思いっきり抓られた。
心なしか棘も刺さっている気がする。
無言でいじけているレアを慰めながら、門番が慌てて色んな所に連絡しているのを眺める。
連絡用魔導石が置いてあるだなんて、結構栄えているんだな。
いやー、全く。
問題ばっか引き起こさないでほしいものだが。
「……只今確認が取れました。入門を許可します」
何とか正規の物であると分かったようだ。
良かった良かった。
【ノクティルム】に行くどころか、〈ヴァルグレイア〉にすら入れないと思った。
「……カイ、ごめんね?」
腕の中のレアが上目遣いで謝ってくる。
「別に良いさ。お前がどこの出身だろうが、どれだけ生きていようが関係無い」
「ふふ。ありがと」
どうにか機嫌を治す事に成功したようだ。
ふう。
さて、ガルドが馬を繋いで来てくれたようだし、さっさと中に入るか。
報告と、夕食、あと宿も取らねえとな。
非常に、大変だった。
今日はさっさと寝よう。




