表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/18

第十四話 《宵哭きの魔獣 ノクスフェル》

 村から東の方へ向かっている最中、探知魔法が大きな魔力の接近を感知した。


「……来たな」


「うん。どうやって戦う?」


 ノクスフェルは大きな鳥だ。

 俺の主な攻撃方法は剣。

 遠距離攻撃は《怒炎顕現(インパルスフレア)》か、《怒火斬刃(フレイム・エッジ)》しか無い。


 さて、どうしたものか。


「……分からん」


「えぇ……。じゃあ、とりあえず私が縛って落とせるか、頑張ってみるね」


「そうか。俺も自分で何とか出来ないかやってみる」


 うーむ。

 炎を飛ばすだけでは、恐らく避けられる。

 しかし、《怒気解放(ブレイズギア)》の身体強化では、斬りかかれる程近づく事は出来ないだろうな。


 まあ、その場で実行するしかないか。

 今考えても仕方がない。


「キョアアアアァァァ!!!!」


 ノクスフェルが咆哮と共にやって来た。

 まあ、一応試してみるか。

 距離はおよそ50メートル程。


「《怒炎顕現(インパルスフレア)》!」


 ルクスの怒りが滾り、眼が紅く光る。

 そして放たれた炎がノクスフェルへと飛んでいく。


 しかし、距離もあってかサッと避けられた。


「チッ。まあ、だろうな」


「私も……《嫉茨共生シンバイオシスエンヴィ》」


 レアの瞳が深緑に光り、辺りの地面からノクスフェルへと魔力から成った茨が飛んでいく。

 《怒炎顕現》よりも速く、僅かにノクスフェルの羽を掠った。


「もうちょっと……」


 惜しいな。

 だが、恐らくレアの茨ではノクスフェルを倒すには至らない。

 それに、以前俺と戦った時の様にすぐ魔力が底を尽きてしまうだろう。


 俺がやらなければ。

 俺が、あいつを殺す。

 俺はもっと強くなる。


 《憤怒(ラース)》がルクスの理性を奪い、思考を単調にしていく。

 しかし、何度《怒炎顕現》を撃っても当たらないのは分かり切っている。

 ならばどうするべきか?


「来い……!」


 ルクスの掛け声に《怒剣ラグナ・レイジ》が応じる。

 黒い魔力が集まり、剣の形を成す。


「直接叩き切ってやる」


 《怒気解放(ブレイズギア)》を発動させ、ノクスフェルへと駆けて行く。

 脚に魔力を巡らせ、力を高める。

 そして思い切り跳躍する。


「クソッ……!」


 あと少し届かなかった。

 避けたノクスフェルが溜めている動作をしている。


「キュアァァアアアア!!!!」


「うっせ!!」


 さっきとは違い、至近距離での咆哮。

 頭にキーンと響き、頭が真っ白になる。


 やばい。

 思考が出来ない。

 俺はどうやってこいつを倒せばいい?

 どうやって斬ればいい?


 何も分からない。

 何も思いつかない。

 どうしよう。


 俺はこいつに成す術なく殺されるのか?

 おかしい。

 俺は強くなったはずだ。

 俺は、力を得たはずだ。


 ルクスの思考が止まり、脳が感情に染まる。

 不意に身体の力が抜け、空中を落下していく。


 今までの怒り、勝てると驕っていた自分に対する怒り、自分を見下ろすノクスフェルへの怒り。

 思い出した裏切りへの哀しみ、自分を見捨てた世界に対する哀しみ、何も出来ない自分への哀しみ。

 無力感、孤独感、空虚感が――そして恐怖が、脳を支配する。


 無情にも、墜落していくルクスをノクスフェルが追撃する。


「ギュアアァァ!!」


 鳴き声と共に翼をはばたかせた。

 羽から黒い風が飛んでいき、ルクスの身体を抉る。


「ぐあっ……」


 痛い。

 でも、《怒気解放(ブレイズギア)》で回復するはずだ。

 だから、大丈夫。


 そういう風に思うも、回復は一向に始まらない。


「あえ……?」


 おかしい。

 何でだ?

 《憤怒》が上手く発動しない。

 俺の身体が、普段通りに動かない。


 こんなのは初めてだ。

 俺は……死ぬのか?

 こんなところで?


 まだ何も出来ていない。

 まだ、俺はあいつらに文句の一言も言えてない。

 ロカの企みを止める事も出来てない。


 俺が、《大罪》を継承した俺が、やらなきゃいけないのに。

 もう、誰にも、何にも負けたくなかったのに。

 成す術無く命を奪われるしかないのか?

 何も奪わせないと、そう自分に、《憤怒》に誓ったはずなのに。


「ふざ……けんな……」


 俺は、もっと強くなると決めたんだ。

 そのために、ここに来たんじゃないのか。

 あいつらに復讐するために。

 もっと、強くなるために。


 ルクスの《憤怒》が力を取り戻し始める。

 しかし、理性が奪われれば奪われる程、逆に《憤怒》は発動を止める。


 だが、どうやって勝つんだ?

 俺には、ノクスフェルを殺す方法が無い。

 ならば、俺に残された道は死しか無い。


 怖い。

 嫌だ。

 死にたくない。


 また、あの時と同じだ。

 地下迷宮の中部屋に取り残された時と同じ。

 死を待つのみ。

 絶望の中でただ、時間が過ぎるのを待つだけ。



 ……もう、いいや。

 全てが面倒くさい。

 死ねば全部終わる。

 死んでしまえば、もう何も奪われる事は無い。


 それで良いじゃないか。

 全てから解放されるなら、それも悪くない。

 裏切られたあの惨めさも、痛みも、哀しみも。

 全部、全部無くなるんだ。


 恐怖に支配された脳は、死を迎合するかのように思考を止めている。

 理性などとうに無い。


 しかし、そんなルクスを目覚めさせる声が届いた。


『だめ……! ルクス、諦めちゃ、だめ……!!』


 レアの声がする。

 そういえば、俺は何でまだ死んでないんだ?

 視界が暗い。

 でも、これは夜の暗さじゃない。


 少し冷静になって来た。

 倒れている俺を守っているのは……これは、蔦?

 まさか、レアが……。

 俺がノクスフェルに殺されないように……?


 であるならば、レアは今魔力をこっちに使っており、自分を守れていないはずだ。

 あんなにひ弱なのに、俺を守るために?


 ……何と、情けない。

 新たに力を得て、魔物に勝ち、そして今回も勝てると、そう思っていた。

 何と傲慢な。

 ただの記録士だった者が、そんな簡単に強くなれるわけがないだろう。


 身体能力に優れているわけでもない、知り合って間もない少女が俺の為に身体を張っているというのに、俺は何をしていた?

 死んでしまえばいいやだと?

 何を甘えた事言ってるんだ。


「クソがっ……!」


 自分に対する怒りが沸々と沸きあがってくる。

 《憤怒》が力を取り戻していく。

 今度は感情に理性を奪われていても、怒りだけがどんどんと募る。


 ノクスフェルにつけられた黒い傷が治っていく。

 《怒気解放》を発動。


 俺は弱い。

 だから――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ