第十三話 夜を食むもの
歩く事二時間程だろうか。
村が見えてきた。
「ここが俺達の村、〈グレイヴ村〉だ。俺達は少し前まで、ただの農民だったんだけどな……」
ガルドがどこに誰の家があって、どこの畑で何を育てていてなど、〈グレイヴ村〉についてを教えてくれる。
その声には思い出に浸った懐かしみ、魔物に対する怒りなどが表れていた。
「で? 魔物はどこにいんだ?」
「あいつは……。あいつは、夜にしか現れない。冒険者ギルドにも依頼を出して何人かが挑んだんだが、ダメだった。もう、俺達はこの村を捨てるしかなかった」
〈ヴァルグレイア〉のB級パーティでは歯が立たなかったのだろうか。
であればA級パーティの出番なのだが、A級は国中の討伐依頼に奔走しているのでまだ来れないのだろう。
しかし、夜にしか出ないのか。
それは少し面倒だが、以前討伐した《ネグラヴァル》に比べればマシだな。
同じく夜にしか出現しない上に、30分程しか滞在しない。
更に、毎日出現するわけではないというのが最大の難点だった。
討伐に2週間かかったくらいには面倒だった。
俺はひたすら町と駐屯地を往復して物資を補給し、魔物が出現したら皆を起こすなどしていた。
それに比べれば、まあ……といったところか。
「よし、じゃあ夜まで待つか。レア、これで寝てて良いぞ」
魔導石から野外活動用のテントを取り出し、さっと組み立てる。
「え? 私は平気だけど……。カイが寝てて良いよ?」
レアが困惑したように俺に言ってくる。
「俺が寝てる間、お前に殺されるかもしれない。俺はまだお前を信用し切っていない。それに、徹夜なら慣れている」
そう言いながらテントの中に入り、布団とライトを取り出しておく。
「そっか。じゃあ、魔物が出たら起こしてね。……あ、私にはどんな事しても良いよ……?」
誘うように服の胸元を少し引っ張りながらそう言ってくる。
「んな事するわけねえだろうが。さっさと寝やがれ」
そう吐き捨て、レアを布団に弾き飛ばす。
「あんっ」
「もっと俺に信頼されてからにしろ」
そう吐き捨てテントを出て出入口を閉める。
そして、外で待っていた山賊共に話しかける。
「んで、ガルドだっけか? 魔物を殺し、お前らに村を戻してやったら俺に何をくれんだ?」
「今持ってる武具や貴金属、金も、少しなら……」
「それは盗品だろうが。んなもん要らねえ」
そう言うと、ガルドは困ったように俯く。
何故俺が、人が悪事をして得た物を受け取らなければならない。
「でも、俺達にはそれ以外渡せるもんなんか……」
かといって別に俺も、金以外で必要なものはない。
どうしたものか。
「なんか珍しい物でも、何でも良いからねえのか?」
「珍しい物……ですか」
「ガルドさん。あれはどうですか? 村にずっと祀ってあった石と紙は?」
「あー。そんなもんあったな」
石と紙を祀る事などあるのだろうか。
何か特別な物なのか?
「何か刻まれてあったりするのか?」
「俺達には学が無いもんで字は読めないんですけど、前調査してもらった時に、何だったっけな。確か……そうだ。『《大罪》を犯した者へ』って書いてありました」
「!!」
《大罪》に関する事がこんなところにあったとは。
「それで良い。ただ、祀ってあるのに持って行って良いのか?」
「大丈夫ですよ。そこまで大事な物でもありませんし。それに、俺達には必要無いんで」
……これは来て良かったな。
後は魔物を討伐するだけ、か。
勝てれば良いのだが……。
日が暮れ始め、もうすぐで日没する。
山賊共は一旦帰した。
レアを起こすのはもう少し後で良いか。
恐らくだが、こいつは隣町から〈ダリウム〉まで歩いて来たんだろうな。
俺の微かな魔力の痕跡を追って。
もう少しだけ、寝させてやろう。
しかし、こいつは何故俺に執着するのだろうか。
《嫉妬》が何か起こしているのか?
わざわざ俺である必要は無いと思うのだが。
こいつと戦った時、俺に言っていた言葉を思い出す。
『それでも……貴方は、全てを奪われていない』
あいつも、俺のように何かを奪われたという事だろう。
俺は《光剣の誓約》の一員であったという立場や、俺の功績。
あいつは、レアは、過去に何があったというのだろう。
聞けば答えてくれるだろうが、名前を聞いた時の言葉がそれを邪魔する。
『無いよ。あるにはあるけど、昔のは嫌い』
レアにとって過去が忌むべきものであるならば、それを掘り返すような真似はしたくない。
まあ、そこまでして知りたい程でも無いしな。
その後も思考を続け、闇が世界を支配する。
それから2時間程経っただろうか。
突如、甲高い音が響く。
「ギキャアアァァァ!!」
「何だ!?」
目当ての魔物だろうか。
山賊共が言うには、この地に伝わる伝承の魔物である可能性があると言っていた。
その名も、《宵哭きの魔獣 ノクスフェル》。
鳥状の大型魔物らしい。
「ルクス……? 魔物、出た?」
レアが今の鳴き声で起きたようだ。
寝ぼけ眼で、服が少し乱れている。
「ああ、恐らくな。……服、ずれてんぞ」
ルクスがさっと整える。
レアが顔を仄かに赤らめた。
「……ありがと。本当に何もしなかったんだね。……意気地なし」
「うっせー。戦う前だってのに、んな事する馬鹿がどこにいるってんだ」
「……拒絶はしないんだね。いつか、私が襲っちゃうよ?」
「……勝手にしろ」
何かもう疲れてきた。
こんな事言う元気があるならもう戦えるだろうな。
「おら、集中しろ。どこにいるかは、何となく見えてるだろ?」
恐らくレアなら魔物の魔力を感じ取っているはずだ。
ついでにテントを回収しておく。
「うん。東の方だね。向かう?」
「そうだな。村が荒らされても困る」
祀られているという石と紙が壊されたらたまったもんじゃない。
出来るだけ、被害が出ないように戦わないとな。




