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第十二話 《嫉妬》の再誕と共犯者

 ギルドの地図を見ながら、次の目的地を決める。

 出来るだけ王都から離れる方向で、それなりに強い魔物が出てくる迷宮が良い。


 〈ダリウム〉は王都から西の方向にある。

 であるならば更に西に向かうべきだ。


 その方向であれば、一つだけ心当たりがある。

 《光剣の誓約リヒトシュヴェルト・エイド》として攻略を行った事がある場所。


 ここからだと、馬車でいくつかの町を経由して三日程かかるだろうな。


 その名は〈ヴァルグレイア〉。

 そこにある【ノクティルム迷宮】が適しているだろう。


 準備はもう既に昨日の時点で出来ている。

 早速出発する事にしよう。


 町の外に馬車乗り場があるため、外へ向かう。

 そして門の辺りへ近づいた時に、何やら騒がしい事に気付いた。


 何があったんだ?

 誰かが喧嘩でもしているんだろうか。


 人の間を抜け、外へ出る。

 その先には――。


「あ、ルク……カイ。やっと会えたね」


 一旦中に戻る事にした。


「ちょっと、どこ行くの」


 蔦で俺の動きを止めやがった。


「おい、離せ。何でここまで来てんだよ」


「貴方の魔力の痕跡を辿って来たの。結構薄かったから、頑張ったんだよ」


 褒めてとでも言いたげなどや顔で言い放ってくる少女。

 ふざけているのか。


「はぁ……? ちょっと目立つからこっち来い」


 蔦を引きちぎって茂みへ連れて行く。

 冒険者共からあらぬ誤解を受けている気もするが、気にしない。

 後でシメる。


「何が目的だ?」


「貴方の傍にいたい。それだけ」


 真っ直ぐな言葉に思考が止まる。

 だが、少女の瞳は嘘をついているように思えなかった。


「おかしいだろ、それは……」


「そう。でも、貴方もおかしいよ。あんなに怒りを抱えて生きてるのに、誰も傷つけようとしない」


 返す言葉が見つからない。


「私には分かるよ。貴方の裏切られた気持ちも、自分に対する怒りも、惨めさも。だから、私は貴方を手に入れたいと思ったの」


 少女は手を広げ、抱き着いてくる。


「私、ちゃんと制御するから。一緒にいても……暴走したりしないから」


 それは、言い訳のような懇願のような、歪で純粋な告白だった。

 ルクスは静かに少女を見下ろし、思考する。


 これは……《嫉妬》の力による依存か?

 いや……魔力の力を感じない。

 俺の中に彼女の言葉が引っかかっている。


「……お前の名前は?」


「無いよ。あるにはあるけど、昔のは嫌い。だから、ルクスが決めて?」


 どこまでも、危うい笑み。

 純真な瞳に、想いに、つい吸い込まれてしまう。


「変な名前でもいいよ。ルクスが呼んでくれるなら、何だって良い」


 名前すら他人に委ねる執着。

 その姿勢は、もはや従属に近い。


「……はぁ。“レア”。文句は言うなよ」


「レア……ふふっ、嬉しい。じゃあ、今日から私は“レア”ね。ずっと、ね」


 その笑みは、純粋に見えて、どこか壊れていた。

 恍惚とした表情で、満足げにずっと反芻している。


 ルクスはそんなレアを放って無言で歩き出す。

 後ろからレアが自然に並びかけてくるのを、拒絶せず、追い払わず、ただ受け入れた。


「ねぇ。ルクスは次、どこに行くつもり?」


「〈ヴァルグレイア〉だ。そこで俺は、もっと強くなる」


「そっか。じゃあ私、カイの盾になるね。魔獣も、敵も、女の子も……ね?」


「……最後のは、いらない」


 そのやりとりに、自分でも僅かに苦笑がこぼれたのを、ルクスは否定できなかった。


 怒りの中にも、静かな温もりが芽生えはじめている――そんな感覚が、どこかで生まれていた。




 レアを連れて馬車に乗り、ひとまずは数個先の町を目指す。

 しかし道中はやる事が無いので、レアから色々と質問攻めされている。


「カイの好きな料理は何?」


「特には無いが……。強いて言うならばシチューだな」


「分かった。作れるようになっとくね」


 流石に人前ではルクスではなくカイと呼ぶように言った。

 まあ、本人も分かっていたようだが。


 結局レアの目的は何なんだ?

 俺の傍にいたいだと?

 裏切られ、捨てられたこの俺に?


 有り得ない。

 何かしらの真意があると見て良いと……。

 普段の俺ならそう割り切っていたのだが。


 レアの言動や姿からはそのようなものは一切感じない。

 そして何より《憤怒》が敵意を感じ取っていない。


 これで俺を騙していたというのならばあっぱれと称えても良い。

 最早それでも良いから信じるのも、また人生といったところか。


 だが、俺はもう何も信じたくない。

 裏切られるのは、もうこりごりだ。



 幾つかの馬車を乗り継ぎ、〈ヴァルグレイア〉までもう少しのところまで来た。

 変わらずレアにべったりとくっつかれている。

 もうこの数日で慣れたものだ。


 そういう風に思っていると、不意に大声が聞こえてきた。


「止まれ! ここを通りたければ金を払いな!」


 ここら辺は規制などあるわけもない。

 山賊の類だろうか?

 通過料金を取るだけとは、何とも自信の無い山賊だな。


「一人当たり金貨1枚だ! 払えなければ荷物を置いて帰れ!」


 ふむ。

 別に払えない事は無いが、何故こいつらに金を落としてやらねばならない。


「どうする?」


「ぶっ潰す。こんな奴ら、いたって無駄だろ」


 レアが山賊の処遇を聞いて来たので即答する。

 人に迷惑をかける存在など、必要は無い。


「オラァ! さっさと出てこいや!」


 山賊が大声で威嚇しているので、言葉の通り降りてやる。

 ざっと8人程だろうか。

 装備はそこまで強くない。

 並の冒険者より少し整っている程度だろうか。


 ……弱いな。


「レア。拘束しろ」


「! 分かった」


 ルクスに頼られたのが余程嬉しいのか、声色に凄まじい喜びがあった。

 レアの瞳が緑に光り、地面から茨が生える。

 山賊達に成す術があるはずもなく、無様に捕らえられる。


「よぉ。あんたら、ここで死にたいか?」


 最悪のファーストコンタクトである。

 が、相手は善人なはずもないので容赦はしない。


「ひぃっ。か、勘弁してくれ! 何でもやるから!」


 恐らくリーダー格の者だろうか、髭の生えたおっさんが頭を下げながら頼んでくる。


「へえ。だが、お前らはまたここに戻ってくるだろ? だったら殺すしかねえよな?」


 《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させ、肩に刃を当てながら問う。


「くぁっ! しない! もう二度としないから、せめて仲間だけでも助けてくれ! 俺の首ならやる!」


 ん?

 山賊にそのような絆があったとは驚きだな。


「ガルドさん! 寧ろ俺らが死ぬべきだ! あんたには妻も子供もいるだろ!」

「そうだ! 親父にだけ責任があるわけじゃない!」


 何やら子分達が口々に色々言っている。


 ……もしやこいつらは、やりたくてやっているわけではない?

 であるならば、最初に金、あるいは荷物を取るだけで暴力沙汰に出なかったのも納得だな。


 単純に人から強奪したいのであれば、殺せばいいだけだしな。

 実際、こいつらの装備はしっかりしており、常人ならば勝てそうにもない。


「なあ。あんたら、自分達が悪事を働いている自覚はあるか?」


 そう問うも、皆俯くばかりで返答が無い。

 少しして、リーダーのガルドと呼ばれていた男が答えた。


「……当たり前だろ。人を脅して不当に金を奪うだなんて。……でもな、俺達だって困ってんだ。それは、こんな事をして良い理由にはならないが」


「ふーん。何があったんだ? 聞かせてくれよ」


「……俺達は元々、近くの村に住んでたんだ。だが、少し前に俺達じゃ到底勝ちようもないくらいの魔物が現れた。そのせいで、働く事も出来ねえし〈ヴァルグレイア〉じゃ俺達の仕事なんか無い。だからこうするしかなかった」


 成程。

 8人もの男が揃っていて尚倒せない程の魔物か。

 ……気になるな。


「俺をその村に案内しろ。レア、拘束を解いてやれ」


「ん」


 茨がスッと消えた。


 ていうか、痛そうだなあれ。

 俺に対しては蔦だったけど、茨も使えるのか。


 ガルドが困惑したような表情で問う。


「俺達の村を……助けてくれるのか?」


「別に、助けるだとかそんな高尚な事はしない。ただ、俺が強いやつと戦いたいだけだ」


 ガルドが目を輝かせながら礼を言う。


「かたじけない……。お前らも頭下げろ!」


 おっさんに礼など言われてもそこまで嬉しくない。

 ……だがまあ、苦しんでいる人がいるのならば見捨てる事はしたくない。


「ほら行くぞ、さっさと歩け」


「へえ! こっちです」


 山賊の後をレアと共に着いていく。


 レア。

 小声で

『本当は人助けがしたいくせに。見栄張っちゃって』

 とか言ってたの聞こえてたからな?


 戒めるためにも腕を抓っておく。


「痛い……。でも、気持ち良い……」


 ……俺は多分、こいつを対処出来ない。

お待たせしました。

ようやくヒロインの登場です。

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