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第三十二章 移ろう気持ち③

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説き、一気に溺愛モードへ……。そこへ黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……

ラント国第二王子フェルゼン。



アンジェ(川野)は、彼と過ごす時間が増えるにつれ、一番驚かせられたのは内面の清らかさだった。

彼は王位継承者、その至高の身分に有り勝ちな、(おご)った態度が彼には一切ない。



冗談とも本気ともいえない言動を見せながら、他者を(おとし)めることも中傷もしない。



フェルゼンの部屋へ給仕をしにきた使用人が、うっかり茶器を落としたとき、

「見事にまっぷたつだね。次は気をつけておくれよ、アハハ」


そう笑って済ますフェルゼンを見て、アンジェ(川野)は目を疑った。

見るからに高級な茶器。



これがクレイモン伯爵家ならば、皿を割った使用人は嫌というほど鞭打ちされるのが日常茶飯事だった。

フェルゼンの愛犬ラックも同様で、王子のフェルゼンに飛びついて甘えている。

貴族の犬は主人に飛びついて甘えないよう厳しく躾けるのが普通なのに。



性格が寛大なのか……フェルゼンと一緒にいて窮屈に感じることはない。

むしろ、安心感さえある。



ゲームシナリオに、フェルゼンの寛大さなど一行も書かれていなかった、彼の本当の姿が、最近見えてきた気がする。



(……いま、気が付くと、フェルゼンのことばかり考えてる……)



今までは、自分を守ってくれる黒狼ルゥが世界の中心だった。

その次に、頼れるバルジャン。



だが今の自分の思考の優先順序が入れ替わってしまった。



攻略対象の優先度低めだったフェルゼン。

イベントのボイスを一度聞きたかっただけだから、フェルゼンを攻略対象にプレイしたのも一度だけ。

そんな推しではないフェルゼンのことで、頭がいっぱいになっている。



明日、フェルゼンに「一緒に食事を取りたい」と言ってみようかと、アンジェ(川野)は考えていた。

彼はどんな食べ物が好きなのか、狩り以外に好きな趣味があるのか、話してみたいと思う。

もっと、彼のことが知りたい。

私の外見だけではなく、内側の私も見てほしい。

自分でも驚くほど、そんなことばかり考えていた。



いつまで待っても現れてくれない本命の王子ルークではなく、いま、この瞬間に側にいてほしいのは、私の額にキスをしてくれる、推しではないフェルゼン。



アンジェ(川野)は再び、顔を湯に沈めて、ルゥの唾液を洗い流した。



今までルゥに舐められて、不快な思いをしたことはなかったけれど、あの異常なまでの愛情表現は、さすがについていけない。

『大好き』と言っておきながら、『大好き』の熱が覚めてきている。



フェルゼンと朝の挨拶をする前に、ルゥに汚された全てを洗い流したい、と考えたところで、また頭の中はフェルゼン……がいる。



アンジェ(川野)は、ぬるくなったお湯の上に、「スキ? 」と指でなぞった。

いつも多くの小説の中から読んで頂きまして、ありがとうございます!!

お陰様で2026年1月23日に連載開始して、多くの方に読んで頂けて本当に嬉しいです。


次は、第三十三章 そして、愛の賛歌へ……


アンジェ(川野)のチートスキルがラント国の王宮でお披露目されることに……という章です。

タイトルの通り、曲はフランツ・リストの「愛の賛歌」。

第二部のスタートで登場したルーク王子が愛した記憶の女性ニナも、追憶として登場します。


この章もかなり長めとなり①~⑥の予定となりますが……

大変申し訳ありません、毎日更新ができなくなくなりましたm(*_ _)m


個人的事情により、2026年11月前半までは、毎月1回の更新とさせてください。

それではこれからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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