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第三十一章 偏執愛①

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説き、一気に溺愛モードへ……。そこへ黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……

---ラント国 王宮内 アンジェが王宮に来て11日後 早朝---



昨夜、フェルゼンから求婚されたアンジェ(川野)が、王宮へ戻ると、テラスに黒狼ルゥの姿が見えなかった。

置き去りにしたことを妬いているのか、それとも怒っているのか、彼はいつまで経っても帰ってこない。

いつもは朝ごはんで平らげてしまう好物の鹿肉も皿に入ったまま、一口も手をつけずに行方をくらましていた。



これまで、そんなことは一度もなかった。

アンジェ(川野)はベッドへ入る直前まで、テラスのガラス扉の向こう側を気にしながら、(ルゥ……)とその名を呼びながら、目を閉じた。



翌朝、いつもりより早く眼を覚ましたアンジェ(川野)は、テラスのガラス扉に映る黒狼ルゥを見て、飛び起きた。

彼が冷たいガラスに鼻先を押し当てて、こちらを凝視している。



「ルゥ、戻ってきたのね……待って、いまカギを開けるから……」



黒狼ギルバートは、アンジェ(川野)の寝室のすぐ外にある、張り出したテラスを棲み(すみか)として与えられていた。

彼はいつもアンジェの枕元が最もよく見えるガラスのすぐ傍に巨体を丸めた。

夜眼のきく黒狼ギルバートには、月明かりがなくとも、銀髪の色も白い肌が、規則正しい呼吸に合わせて、胸元が小さく上下する姿も全て見えていた。



もっと近くで、お前の肌に触れたい。

彼は、アンジェの寝顔でさえ、誰にも渡したくないと感じていた。

自分だけを見て、自分だけを慈しんでほしい。

彼女の小さく細い指先で頭から尾の先まで撫でられ続けたい。

もっと俺のことを記憶に刻みつけてほしい。



あれもこれもと、欲求が次々に増え、ガラス扉越しに見つめれば見つめるほど、アンジェ(川野)を募る独占欲が、夜を越すごとに重く鋭く疼いていた。



その日々を打ち壊すかのように、義弟フェルゼンが、自分の元からアンジェ(川野)を連れ去り、求婚した現場を目撃したとき、黒狼ギルバートは棲み処へとは戻らず、森へ戻った、元から君臨している王として。



森の王は、荒れ狂う気持ちの渦に飲み込まれ、ギルバートであることを忘れて、手当たり次第に獲物を狩り、片っ端から(なぶ)り殺していく。

黒狼ギルバートの通った山道は、獣たちの内臓と血しぶきで赤く染められた。

だが、それだけで怒りが治まるはずはない。

どうしようもない苛立ちを胸に抱えたまま、夜更けにアンジェのテラスへと戻ってみると、ガラス扉の向こうで、彼女は穏やかな顔をして寝ていた。



そして、その朝。

小さな金属音が響き、アンジェ(川野)が鍵を開けた瞬間、ギルバートの我慢は限界を迎えた。

扉がわずかに開くやいなや、彼は巨大な黒い影となって彼女に飛びついた。



「わっ、ちょっと待って、ルゥ!」

驚き、床に尻もちをつくアンジェ(川野)の身体。

黒狼ギルバートは、大きな前肢で彼女を押し込めるようにして組み敷く。



空色の瞳が見つめて言う。

「ルゥ……心配したんだから……」と。



彼女の頬を義務的に一度ペロリと舐めた。



ふふっと嬉しそうに笑うアンジェ(川野)を、黒狼ギルバートは許せなかった。

フェルゼンに、その肌を触れさせ、唇を受け入れたことで、俺はこんなに傷つけられたのに、おまえは嬉しそうに笑っているのか、と。



(お前の唇は俺のものだと証明してやる……いまここで……)



黒狼ギルバートは鼻先をアンジェ(川野)の唇に寄せ、彼女の息が出来ないほどに、長い舌で下唇から上唇まで激しく舐め回した。



白い肌に淡く艶やかな桃色を讃えた彼女の唇は、顔のパーツの中で黒狼ギルバートが一番愛している部分でもあった。

その唇が「大好きよ」「側にいて」と自分を求める声を発する。

孤独から解放してくれた、この唇が他の男の名前を呼んだり、誰かの唇で覆われたくはない。アンジェ(川野)の頬に、黒狼ギルバートの唾液がたらたらと筋となり流れていく。



あまりにも激しく舐め廻され、アンジェ(川野)は黒狼ギルバートの身体に、「止めて」と、コンコンと拳を当てるが、それでも彼は止めなかった。



ちょうど鼻先と上唇を舐め続けたところで、アンジェ(川野)が息苦しそうに、はあっと口を開いた。



その瞬間、黒狼ギルバートは待ち構えたように、長く湿った長い舌を彼女の口の中へ、グッとねじ込んだ。

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