第三十章 婚約指輪⑦
【前回までのあらすじ】
さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……
聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説き、一気に溺愛モードへ……。そこへ黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……
ラント国第二王子フェルゼンがアンジェ(川野)を愛おしそうに見つめて言う。
「これは、おまじないさ。君との『お試し期間』が、一刻も早く終わって……君が、心から俺と結婚したいと言ってくれるためのね」
顔を上げたフェルゼンは、いたずらっ子の少年のように笑った。
アンジェ(川野)は心臓がキュッと締め付けられるのを感じた。
(……うわぁ、美形の笑顔って……めちゃめちゃ心臓に刺さるぅー……なんか最近、フェルゼンに対するポイントが爆上がりしてるんだけど……どうなってる、私)
アンジェ(川野)は赤くなった顔を隠すように俯いた。
指輪に落とされたフェルゼンの唇の熱が、指先から心臓へと伝わってくる。
フェルゼンにセクハラ大魔王の一面があったとしても、それは彼の全面ではない。
29歳で恋多きプレイボーイの王子が、”お試しの恋人”のような子供っぽいお願いを受け入れてくれるのは、人としての度量があるからだろうと、アンジェ(川野)は思った。
まだ一部しか見えていない、フェルゼンの本当の優しさと、その奥に隠しきれない情熱に応えることが出来ない自分後ろめたさに、彼女は心の奥にチリリとした痛みが刺す。
(……このサファイアは清く澄み切っていて……青が眩しい……)
顔を上げると、アンジェ(川野)の正面には、微笑むフェルゼンがいた。
その一部始終。
求婚しているフェルゼンと、はにかむアンジェ(川野)の睦まじい光景を見せつけられた黒狼ギルバートは、湖畔より離れたところで、悔しさのあまり唸り声を上げた。
グゥッ、グゥッ……。
黒狼ギルバートが踏めしめている土が、爪の間に入って来る。
(アンジェ……俺のアンジェに触れるな! アンジェは俺だけのものだ……)
黒狼ギルバートは怒りと嫉妬で身体を震わせた。
自分を抱きしめる彼女の指先が、あんな軟弱な人間の男の唇を受けるなど到底許せるはずはない。
彼女の肌に触れていいのは、この俺だけだ、と。
義弟のルークが亡きあと、もう一人の義弟フェルゼンが俺のアンジェ(川野)を奪い取ろうとするのか。
今すぐ、あいつの喉笛を食い破り、その亡骸の上に後肢で砂をかけ、彼女を連れ去りたいという衝動で、血が沸騰する。
だが、黒狼ギルバートは、そのまま爪を土泥に深く立て、かろうじてその本能を抑え込んでいた。
ここで義弟フェルゼンを殺し、力ずくでアンジェ(川野)を奪おうとすれば、彼女は俺を愛することも、抱きつくことも二度とない。
そうわかっているからだ。
アンジェ(川野)だけには、恐怖に怯える瞳で見られたくない。
「いつまでも一緒にいたいルゥ」である方を選びたい。
金色の瞳が怨嗟に燃える。
満月の夜、人間の姿に戻ったら、おまえを、この腕から一時も離さずに抱きしめ続けてやる。
これまで俺が抱いた女たちのように、俺の全てを受け止めさせてやる……
身も心もすべてを捧げて愛を契るのは、その男ではない、この俺だということを、おまえの身体に知らしめてやる、黒狼ギルバートは心の中で叫んでいた。
加速していく黒狼ギルバートの感情……第三十一章 偏執愛では、彼の気持ちが爆発する章となります。
ぜひ、この続きも読んでやってください( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )




