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第三十章 婚約指輪④

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説き、一気に溺愛モードへ……。そこへ黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……

アンジェ(川野)が今後のことについて思案……していた状況から戻り、フェルゼンの顔を見つめたとき、彼は懐から革の小箱を取り出した。

その革の小箱の中身は先日、購入したものだった……。




---(話は数日前に遡り……)ラント国領内 王宮広場近く老舗宝石店 アンジェが王宮にきて6日後---




城下町の喧騒を抜け、ラント国第二王子フェルゼンは王宮広場近くに店を構える老舗宝石店へ、やって来ていた。

重厚な扉を開くと、リンと澄み切ったベルの音が響き、白髪の店主が恭しく、



「いらっしゃいませ、フェルゼン殿下。お品物はご用意できております」と、店の中へと彼を案内した。



店主は横壁いっぱいに備え付けられた棚のひとつの引き出しを選び、そこから小さな黒い革箱を取り出した。



「こちらでございます」



店主の手から、フェルゼンの手へと渡る革箱。

フェルゼンが箱を開くと、プラチナシルバーの細身のリングに、中央の台座には雫型サファイアがはめ込まれた指輪があった。



指輪のサファイアの色はフェルゼンと同じ瞳の色だ。



「いかがでございましょう」



「うん……気に入った……これを頂こう。請求は俺の屋敷へ廻しておいてくれ」



「ありがとうございます……フェルゼン様、実は、そちらのご令嬢専用のものとは別に、男性用のものもございまして……」



「俺の分もあるというのか……商魂逞しいな、アッハッハ……見せてもらったところで、買わないかもしれないがいいのかな……」



「もちろんでございます」



店主が別の引き出しから茶色い革の小箱を取り出し、箱を開く。

先程のサファイアと違い、大き目シルバープラチナのリングの中ほどに正方形のサファイアが埋め込まれている。



「ほぉぅ、これも美しいな…」



「フェルゼン様、お気に召して頂けましたでしょうか……求婚される際に、フェルゼン様はご令嬢の指へ、ご令嬢からフェルゼン様の指へ、お二人が揃って指輪を交換されると、サファイアの宝石が持つ効果で、恋愛関係を(いしずえ)から構築し、愛情が長続きすると言われております」



「うむ、気に入った……指輪よりも、そなたの話、恋愛関係を礎から構築する方が俺の欲するところだな、ハッハッハ」





---(現在)ラント国領内 ジェルダン平原の湖畔---




フェルゼンは取り出した革の小箱を前にして、これまで感じたことのない高揚感と、胸にはわずかな焦燥が渦巻いていた。


そよ風に揺れるアンジェ(川野)の銀色の髪、細い肩、空色の瞳。

これから彼女が完全に自分のものなる、その熱い欲望が、彼の心臓の鼓動を速める。



「アンジェ」



その名前を呼ぶ声が、意外にも震えた。

フェルゼンははアンジェ(川野)の前に(ひざまず)き、革の小箱を開けた。

中には二つの指輪が入っている。



「……俺と……結婚してほしい」



差し出された箱の中で、サファイアが陽光を浴びて光る。

フェルゼンは、アンジェ(川野)の顔が喜びでいっぱいになるはずだと信じていた。



けれど彼女は彼の予想に反し、驚きと戸惑いが混ざり合ったような複雑な表情を浮かべて立ち尽くしていた。



「フェルゼン様……お気持ちは、とても嬉しいのですが……」



アンジェは視線が定まらない様子で俯いている。



「フェルゼン様とは出会ったばかりですよね……私はフェルゼン様のことを何も存知(ぞんじ)ておりません。フェルゼン様も、私のことをご存知ないでしょう……結婚のお話よりも先に、私のお願いを聞いて頂けないでしょうか……フェルゼン様と、お付き合いするかどうかを決めるために『お試しの期間』を頂きたいんです。 婚約者としてではなく、まずは恋人になる前に、お互いを知るための時間を……」

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