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第三十章 婚約指輪③

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説くのですが、黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……

---ラント国領内 ジェルダン平原---




フェルゼンは猟犬ラックの変化を見逃さなかった。

彼は手綱を(さば)きながら、一瞬だけ鋭い視線を背後へ走らせる。



(……やはり、尾行()いてきたか……黒狼……彼女は……おまえには渡さない……)



道の端、草並みの影に見え隠れして潜み、進んでくる黒い影。

獣とは思えぬ執拗さで、目立たぬよう彼らの後を追ってくる姿に、フェルゼンは胸の内に冷たい火が灯るのを感じた。

が、腕の中にいるアンジェ(川野)の肩が微かに震えるのを感じると、すぐに表情を和らげた。



「ラック? 」



いままで楽し気に吠えていたラックの声が聞こえなくなり、アンジェ(川野)が 不思議そうに振り返ろうとする視界を遮るように、フェルゼンは彼女を抱き寄せ、馬をさらに加速させた。



「何でもない。ラックが野ウサギでも見つけたんだろう。ほら、見てごらん、アンジェ。もうすぐ湖が見えてくるよ」



不穏な黒い影をアンジェ(川野)に悟らせたくはなかった。今の彼女に必要なのは、恐怖ではなく安らぎのはずだ。



木漏れ日の落ちる木々の間を走り抜けると、目の前へ宝石エメラルドのように輝く、青翠の湖のほとりへと辿り着いた。

フェルゼンはそこで馬を止め、アンジェ(川野)を優しく抱きかかえ地面へと降ろす。



湖畔の岸辺には水色と白色の小さな花々が咲き乱れ、湖面には、穏やかな波紋が陽光を反射して無数の煌きが踊るように舞う。

ラックはまだ遠くの丘の上で、じっと後方を警戒している。



「おいで」と、フェルゼンがアンジェ(川野)の手を優しく取る。



フェルゼンとアンジェ(川野)は並んで歩き、岸辺のベンチへと腰かけた。



「アンジェ。君をここに連れてきたのは二人っきりで話がしたかったからだ」

フェルゼンの瞳が、真剣な光を湛えて彼女を見つめる。



「前にも伝えた通り……改めて、私の妻になってほしい。君の心の傷も、君が抱える不安も、すべて私が共に背負いたいと思っている。生涯をかけて、君を慈しむと誓うよ」



フェルゼンがアンジェ(川野)の顔を覗くと真剣に考えてる様子で、ここまで来て告白できたことが嬉しく思える。



アンジェ(川野)は湖面のさざなみを見つめ、思案していた。


(……フェルゼンは29歳、アンジェは17歳……前世の感覚で考えちゃダメかも……、だけど、未成年相手に告白ですか……とか思っちゃう。ボディタッチとか、いきなり抱きつくとか、手を握りしめるとか……セクハラ大魔王と結婚!? 


マジ有り得ないし……そうはいっても、ここは私の知っている『マジカルラブムーン』に似た世界であって、あのシナリオ通りに進まない異世界……破滅ルートと溺愛ルートが消滅したわけじゃない……聖女狩りの男たちには何度も襲われるし……一度目は黒狼ルゥに助けられ、二度目はフェルゼン王子に助けられ……二度あることは三度あるなんて想像したくもない……


もしも、この異世界で生きていこうと思ったら、力のある人の元にいた方がいいに決まってる。このフェルゼン王子のように……最近すごい溺愛ルートに突入しているけど……ああ、なんだか気持ちの整理がつかないな……これって、(さら)われたときの一日分の記憶喪失と関係があるのかな……。『マジカルラブムーン』の大本命は”一条 椿”様が声を演じるルーク王子。ルークのことを考えただけでも胸が締め付けられるように苦しい。椿様の声で「アンジェ」と呼ばれ、抱きしめられたい……なんて、乙女チックな妄想なんだか……クスッ。


それにしても……フェルゼン王子……美形のセクハラ大魔王……推しじゃない……なのにセクハラされても憎めない……憎むよりも、あのソプラノボイスを聞いたら一瞬尊く感じちゃう……


あれ、私、なんだかフェルゼンに毒されてるっぽい……もし、結婚は考えられません、ゴメンナサイしたら? 


「じゃあ側室になってくれ」とか言い出しそうだしなぁ。……いつまでもプロポーズの返事は伸ばせないし……それに17歳のアンジェには結婚で失敗してほしくない、中にいるバツイチの私が言うのも、なんだけど。結婚にお試しはないからね……あれ? お試し……そうか、その手があったかも……)

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