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第二十九章 銀の腕輪④

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


一方のアンジェ(川野)は、聖女狩りの男らに捕まりますが、偶然訪れたフェルゼン王子に救助されるものの、彼は美形の金髪セクハラ大魔王で溺愛モードへ突入し……

重厚な部屋の扉が閉まると、そこはアンジェ(川野)と黒狼ギルバートだけの静寂の時間に包まれた。



「今日から、ここが、あなたの家よ……でも、教会の時のように同じ部屋では寝れないようね……でも外のテラスだったら窓越しに私の姿が見えるでしょう。私もルゥを見てるから安心して……これからは外のテラスがルゥのハウスなの。あなた専用に柔らかい毛布も用意してもらったのよ。ねえ、ルゥ。ハウスへ行く前に、もう一度抱きしめさせて……」



アンジェ(川野)は床に腰を下ろし、黒狼ギルバートの大きな頭を膝に乗せた。

彼女の手が、彼の額から首筋へと優しく、丁寧に撫でる。

その指先が触れるたび、彼の心にこびりついていた「略奪」の衝動が静かに剥がれ落ちていく。



「ねえ、ルウ。あなたは、どうしてそんなに哀しそうな目をしているの?」



彼女の空色の瞳が、黒狼ギルバートの魂を優しく包み込む。

彼は、彼女の顔を再び舐め上げた。



「ああ、くすぐったいってば」

アンジェ(川野)が声を上げて笑う。

その無邪気な笑い声を聞きながら、黒狼ギルバートの瞳はこれまでにない穏やかな光を宿していた。



(……俺はルークではない。だが、その名でも我慢しよう、お前といられるならば……)



これまでの黒狼ギルバートは、明日という概念はどうでもいいものだった。

いつまで経っても呪いは解けない、それゆえに明日への期待を持ったことはない。



……黒狼の時間は狩りの獲物を(なぶ)り殺しながら、獣たちの断末魔を愉しみ血肉を味わった。

満月の夜、人間の身体に戻る時間は若い女を見つけては欲望のままに、我が身が燃え尽きそうになる夜明けまで凌辱の時を過ごした。



それ以外の選択が初めて訪れた、いま。

彼は、自分が「ルーク」ではないことに、不思議と微かな痛みを覚えた。

冷酷な略奪者であった黒狼ギルバートは、銀髪の少女がもたらす愛によって、自分自身の居場所を確保し、明日の朝が来る喜びを見出したのだった。




---ラント国 フェルゼンの部屋---




その頃、フェルゼンのは自室にある外のテラスで月を見上げていた。

愛犬ラックがフェルゼンの足元に座り、周囲を気にしているようだ。



「ラック、おまえも気になるのか、あの黒狼が……」


ラックは主人を見上げ、クウンと鳴く。



「そうだな……ラック……俺も気になる……あの狼の目……あれは、ただの獣の目じゃない……何か異様な禍々しさがある……だが、アンジェが『相棒』とまで呼ぶ以上、引き離すわけにもいかない……か。アンジェだけがいればいいんだ……俺の側には……」



フェルゼンの胸にはアンジェ(川野)との未来を描きつつも、嫌な予感が押し寄せていた。

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

この続きは、第三十章 婚約指輪 です。


かなりボリュームがある章のため、本日2月22日に数話アップします。

それでは、引き続き読んで頂けると嬉しいです。

どうぞよろしくお願い致します。

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