第二十七章 本気の恋①
【前回までのあらすじ】
さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)でしたが、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知り、喜んだのもつかのま。黒狼ギルバートはアンジェの放つ甘い香りが"呪いを解くカギ"と確信し、黒狼ルゥよりも先にアンジェを手に入れようと攻撃をしかけてきます。そんな決闘中、二匹の前に狩人の男が現れ、黒狼ギルバートではなく、銃弾は黒狼ルゥへ。逃げ惑う黒狼ルゥは滝つぼへと落ちてしまい……
一方のアンジェ(川野)は、男らによって見知らぬ土地の物置小屋へと連れていかれ、鉄格子の檻の中へと囚われてしまいます。アンジェ(川野)は必死に助けを待ち、ようやく現れたのはラント国第二王子のフェルゼンでした。破滅ルートの攻略対象者であるフェルゼンは、アンジェ(川野)へ、いきなりのプロポーズ!?……
フェルゼンと共に王宮へ向かう馬車に揺られることになったアンジェ(川野)は、目覚めるとフェルゼンの膝を枕に眠っていたことに気づき、慌てて跳び起きた。
「……あっ、でん……殿下?……た、大変申し訳ございませんっ……」
「気にしなくていいよ、レディ……そう言えば、君の名前を聞いていなかったね。俺はフェルゼン、ラント国の第二王子だ」
「あ、はい……私はカワじゃなく、アンジェ・クレイモンと申します」
「……クレイモン?……ヴァレー国で金山採掘業を営むクレイモン伯爵家? 」
「……はい……その、養女ですが……」
「そうなんだ、君があの……」
と、フェルゼンがアンジェ(川野)の指先を見つめた。
伯爵令嬢の白い手は、細かな傷と、皮膚がささくれ立っている荒れた手だった。
身分の低い貴族の中には養女を使用人代わりにする者もいるというが、クレイモン伯爵家といえば、ラント国とも金交易があり、富裕な貴族だと聞いている。
その富裕な貴族が養女に、こんな仕打ちをするのだろうか、それとも目の前の彼女が嘘を言っているのだろうか。
フェルゼンは一抹の不安を覚えた。
するとアンジェ(川野)が改まって、フェルゼンから身体を離して深々と頭を下げた。
「……私のこんな汚れた姿で、殿下のお洋服……いえお召し物を汚してしまい、本当に申し訳ございませんでした……あの、お城へ戻られたら、私に殿下のお召し物を洗濯させてください。恩返しも何も出来なくて……洗濯ぐらいでしかお詫び出来なくて、恐縮なんですが……」
フェルゼンはアンジェ(川野)の顔を見てフッと笑った。
「そんなこと、君が気にしなくていいよ、アンジェ……さっきの犬、見ただろう。俺の愛犬、ラック。いつも狩りに行くと、泥だらけのラックが、俺に飛びついて来るのさ。だから出かけた後は、このお召し物はもっとひどく、まあドロドロだね。うちの家臣もドロドロ服の洗濯なんて慣れっこだよ……それに伯爵家のご令嬢に着衣を洗わせるなんて、俺の心が痛む」
フェルゼンはアンジェ(川野)の空色の澄み切った瞳を見ると、先程の一抹の不安は思い過ごしだったのだと考え直した。
彼女が使用人のような生活をしていたことは、いまの”洗濯”発言で明らかだ。
第一、俺を利用しようとするのなら、檻から解放されて「教会へ戻ります」とは言わないはずだ。
自分が、この国の第二王子だと名乗りをあげると、すべての令嬢は玉の輿を狙ってくる。
玉の輿願望のない令嬢なんて見たことがない。
それに所々に垣間見る仕草や話し言葉は使用人のものではない。
(……彼女は欲がない……聖女候補者であったとしても……俺は……)
フェルゼンはアンジェ(川野)の手を取り、軽くキスをすると、
「……俺は、君に夢中になりかけてる……」
と、憂いをこめたソプラノの甘い声で、真っ赤な顔をしている銀髪の少女へ囁いた。
--ラント国 王宮内大広間---
王宮に到着して間もなく、豪華絢爛な大広間で待っていたのは、冷ややかな空気を装う美女――フェルゼンの母である王妃のグレイシアだった。
グレイシア王妃はアンジェ(川野)の姿を一目見るなり、レースの手袋をはめた手で持つ羽飾りのついた扇をパチンと鋭く閉じ、眉を顰めた。
年齢は40歳前後に見えるが、手入れの行き届いた白い肌に金髪碧眼は、ハリウッド女優のような近寄りがたい美しさと、王家独特の気品を纏っていた。
「フェルゼン、なんということを……。その娘の銀髪……それはヴァレー国の王家の血筋に特有のものです。そのような娘を保護すれば、隣国との不必要な争いになりかねません。外交問題に発展する前に、すぐに国境付近へ追いやりなさい。身元の知れぬ者を我が国へ入れたとあれば災いの種となりましょう」
グレイシア王妃の痛烈な言葉にビクッと怯えたアンジェ(川野)だったが、彼女自身、その方が逆に都合が良いのでは、とさえ思えた。
いま追放されたのなら、遠くへ逃げられる。
しかし、フェルゼンは一歩も引く様子がなく、アンジェ(川野)の腰に手を廻して抱き寄せ、母である王妃を真っ向から見据えた。
「母上、それは出来ません。私は、彼女に一目惚れしたのです! 」




