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第二十六章 待ち人③

【前回までのあらすじ】


さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)でしたが、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知り、喜んだのもつかのま。黒狼ギルバートはアンジェの放つ甘い香りが"呪いを解くカギ"と確信し、黒狼ルゥよりも先にアンジェを手に入れようと攻撃をしかけてきます。そんな決闘中、二匹の前に狩人の男が現れ、黒狼ギルバートではなく、銃弾は黒狼ルゥへ。逃げ惑う黒狼ルゥは滝つぼへと落ちてしまい……


一方のアンジェ(川野)は、男らによって見知らぬ土地の物置小屋へと連れていかれ、鉄格子の檻の中へと囚われてしまいます。アンジェ(川野)は必死に助けを待つのですが……

そして三日目の朝。



体力の限界と、絶え間ない恐怖がアンジェ(川野)の心を支配し始めた。

瓶に入った少ない水を四人で分け合って飲むせいか、喉は渇き、日に一個の黒パンの欠片(かけら)だけで、激しい飢餓感にも襲われていた。



アンジェ(川野)は心の中で何度も繰り返し、「ルゥ、早く助けに来て……」と叫び続けていた。

だが、どれほど待ちわびても、顔を埋めたくなる毛並みに、あの温かい体温や、荒々しくも優しい鼻先、クンクンと甘えて呼び鳴きする声すらも聞こえない。



ルゥもバルジャンも相棒だと信じていたのは自分だけで、実際、彼らにはアンジェという一人の人間のことなど、どうでもいいのかもしれない。

ルゥとバルジャンのことは不思議と“心配”だけが残っていたけれど……。

希望が失望へと変わった。



アンジェ(川野)の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。

この世界は、前生の絆とは全く違う。

強く結ばれていると思っていた絆が、こんなにも(はかな)く、自分一人の勝手な思い込みだったかのように感じられる。



黒狼ルゥが現れないという事実は、ただ囚われているという肉体的な苦痛以上。

絶望は(やいば)となり彼女の心を深く、えぐった。



四日目の昼。



突然……小屋の外から、男たちの雄叫びと剣戟(けんげき)の音が響いた。

怒る犬のけたたましい鳴き声。



「うわわぁぁっ……」



「ち……畜生ょぅぅー」



「……うっ……ぐぅぅ……ゴボォッ……」



……身体が張り裂かれるような凄まじい絶叫……金属音……



アンジェ(川野)は少女たちと共に檻の内側の奥の方でビクビクし身を寄せ合っていた。



興奮した馬たちがヒヒーィンと(いなな)き騒ぐ。



そこへ、乱暴に扉が蹴り破られる音が響き、足音が飛び込んできた。

眩いばかりの陽光を背景に、いくつかの人影が走り寄って来る。



(……もう、勘弁してよ……)

アンジェ(川野)は胸の前で、祈るように両手を握りしめた。



逆光の中に長身の影が立つ。



「……みんな、大丈夫かい? 」



しっとりと穏やかなソプラノボイスが、静まり返った山小屋に染み渡った。



(……助け……なの?)

アンジェ(川野)が顔を上げると、そこには豪奢な鎧を身に纏い、金髪に青い目の騎士がたっていた。



(……あ、この人……フェルゼン王子? ……攻略対象の……超絶眼福ぅ……すごい美形のはずなのに……また、来たのかい……破滅ルートがぁぁぁ……)



ルゥとバルジャンが助けに来てくれなかった失望の上に、新しい破滅ルートの訪れが上書きされたことが悔しくて溜まらない、そう思うと、また涙がこぼれる。



フェルゼン王子はラント国の第二王子、乙女ゲーム『マジカルラブムーン』の攻略対象だ。

だが彼と出会うのは破滅ルート。

ゲームの中でアンジェはフェルゼン王子の側室にされ、それを妬んだ別の側室に毒を盛られて死ぬバッドエンドが待ち構えている。



フェルゼン王子の背後には屈強な騎士たちが控え、賊たちは既に制圧されているようだった。

一人の騎士が鉄格子の檻をガチャッと開くと、縮こまっていた少女たちが一斉に檻の外へと走り出た。



アンジェ(川野)は一番最後に檻から出る。

と、その様子をフェルゼン王子がじっと見つめていた。



「君も大丈夫かい、レディ」



「……あ、ありがとうございます、電話……じゃなく……殿下…お陰様で助かりました」

(……電話って言っちゃった……殿下なんて言葉、そう簡単に出てこないよ。にしても、ガン見されてるし……)



フェルゼンはアンジェ(川野)に近寄り、頬に流れた涙を拭う。



「怖かったんだね……」



フェルゼンはアンジェ(川野)の銀髪を指で(すく)い、

「この美しい髪も、君の頬も、服まで血だらけじゃないか……」と呟いた。



(……ああ善明寺敬介さまのナマ声ぇぇぇ……本当は、その甘くて、とろけそうなソプラノボイスをもっと、もっと、ずうっと聴いていたいんです……でも、今は……逃げなきゃ……にしても、そんなに見つめないで、ドキドキしちゃう……)



「……本当にありがとうございました。これで教会へ戻れます……」



「教会? その汚れた恰好で行くの? うーん、その前に汚れを落とさなきゃいけないね。俺が、君の身体を隅々まで、綺麗に洗ってあげるよ。一緒にお風呂で洗いっこでもしようか。教会へ行くのは、それからでも遅くはないんじゃない」



「はいぃ?……」

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