表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/95

第二十五章 救い、の先にあるもの①

【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)でしたが、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知り、喜んだのもつかのま。黒狼ギルバートはアンジェの放つ甘い香りが"呪いを解くカギ"と確信し、黒狼ルゥよりも先にアンジェを手に入れようと攻撃をしかけてきます。そんな決闘中、二匹の前に狩人の男が現れ、黒狼ギルバートではなく、銃弾は黒狼ルゥへ。逃げ惑う黒狼ルゥは滝つぼへと落ちてしまい……

---ヴァレー国ダンテス・クレイモン伯爵領とラント国の国境近く ウンデルの森を流れるジョルジャ川---




治癒魔法師バルジャンは卑劣な狩人の男らが放った弓矢に足を射抜かれ、奪い去られるアンジェの背中を見送ることしかできなかった。



何もできない自分……その前へ、人生の絶望の淵に現れたのは黒狼ルゥだった。

あれほどまでに嫉妬していた黒狼に、自尊心を捨ててまで「アンジェを助けてくれ」と(すが)った。



いまにして思えば……あれは紛れもない屈辱の瞬間だったのでは、と。

アンジェの身の危険を回避できるのは我が家であるパーシモン公爵家だ。

だが、我が家へ向かう旅の途中で、まさかアンジェが下賤な男らにさらわれるなど予想もしなかった。

そもそも旅の道連れには騎士と黒狼がいる。

そう安易に考えていた。



恋のライバルともいえる「騎士」と「黒狼」。

アンジェが奪われてしまうかもしれない、そんな懸念がなかったわけではない。

けれど、治癒魔法しか使えず戦闘能力もない自分には、彼らを頼るしか選択肢はなかった。

それなのに、事態は最悪の形で現実となった。



危機的状況の中で彼女を守るのは、結局はあの黒い獣……。

その事実が、彼の誇りを傷つけガラガラと音を立てて崩れていった。



バルジャンは、男たちが去った後の静寂の中で、己の治癒魔法で傷口を閉じ、周囲の皮膚組織を再生させた。

弓矢が貫いた場所は、治癒魔法で“塞いだ”だけだ。

血は止まっても、傷ついた筋肉組織と骨まで再生できたわけではない、骨と周囲の筋肉が記憶している痛みは残ったまま。



足を地面に降ろすたび、骨の奥から、じくじくと(きし)んだ痛みがやってくる。

治癒魔法を限界まで使って消耗した体力と、心にぽっかり空いた塞ぐことのできない暗い空間が、バルジャンの気持ちを()えさせる。



朝の森は野鳥たちの(さえず)りが一層、響いていた。

木々の葉が風に揺れる。


どこからともなく、森の奥の方で水の音が聞こえてきた。



(……この近辺はジョルジャ川が流れていたはずだ……この忌まわしい血で汚れた手と足を、清らかな川の水ですすぎたい……)



その衝動に駆られ、バルジャンは川の方へと、足を引きずりながら向かう。

森が開け、清流のジョルジャ川には、紅葉に色づく落ち葉が数えきれないほど流されている。

川波が岩にぶつかり、しぶきが飛ぶ。

それらに反射する陽光で無数の(きらめ)きが生まれていた。


美しい秋の紅葉のワンシーン……。

だが彼には景色を(たの)しむような、ゆとりはなかった。



バルジャンは、河原の石に足を取られないよう、川岸にある浅瀬の岩に腰を下ろして靴を脱ぎ、足を川に浸そうとした、その時だった。



上流から、大きな黒い塊が流されてくるのが見えた。

それは、清流に揉まれ、岩に身体を打ちつけられながら下ってくる「黒狼」だった。

あの黒狼が、今やただの動かぬ肉塊のように川を流されている。



一瞬、黒狼の眼が薄く見開き、バルジャンを見つめた。

その金色の瞳には威厳も敏捷さとも無縁な、死を目前にした虚無が宿る。



バルジャンは、反射的に川の中へと降り、手を伸ばしかけ――そして、止めた。

数ある小説の中から読んでくださいまして、ありがとうございます!


第二十五章 「救い、の先にあるもの」についての概要です。

この章は4話構成です。


①②③は黒狼ルゥに対するバルジャンの気持ち

④は黒狼ルゥがルーク王子として過去を回想


主役が不在の章となりますが、黒狼ルゥとバルジャンが、恋するアンジェがいない中に感じる気持ちをぶつける、第二部の全体に大きく関わって来るシーンですので、最後まで読んで頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ