第二十三章 「聖女狩りの跫音(あしおと)」①
ついにラストの第二十三章!!!
恋の三角関係も一段落し、パーシモン公爵家へと旅立つ三人の前に新たな試練が……。
前編の①と中編②、後編の③、ぜひセットで読んでやってくださいm(*_ _)m
その満月の夜、アンジェ(川野)とバルジャンは荷物をまとめ、教会で避難所を共に立ち上げ尽力してくれた神父たちと別れを告げた。
バルジャンは当面の間、治療で使えそうな薬草を神父の手に委ねる。
これから治癒を求めてやってくる人々を見捨てるようで申し訳ない気持ちだ。
しかしそれ以上に、愛する女性を守りたかった。
教会では復興が進み、領民の一部をのぞいては、多くが各々の家へと戻っていた事だけは、救われる。
そんな思いでいた。
外は冷えきった夜気に満ちている。
満月は薄雲に覆われ、夜明け前の空は、青と灰色の狭間で息を潜めていた。
3人は教会を後にした。
教会入口では数名の神父が、両手を組んで聖女の加護を祈っている。
アンジェ(川野)とバルジャンは深く頭を下げ、ルークはその様子を横で眺めている。
全員の胸には、もう戻れないかもしれないという予感が交じっていた。
街はずれまで来る頃、空の端の方に暁きの朱色がうっすらと帯び始めた。
しばらくしたら朝日が昇る。
空を見上げ、森の入り口で、ルークが足を止めた。
「俺……先に行くよ。森の中ほどで落ち合おう」
「気を付けてね」
アンジェ(川野)は胸の前で小さく「バイバイ」と手を振る。
ルークはバルジャンの方を振り向き、
「すまない。少しの間、アンジェを頼む……なるべく早く戻る……」
と、掠れた声で切実な願いをバルジャンに託す。
ルークは森へと駆けていく。
……草をかきわけて進む足音はすぐに消えた。
「騎士の彼が先へ行くって、森になにかあるのですか? 」
「彼は……ちょっとワケありの事情があるので……」
アンジェ(川野)が口を濁すので、バルジャンは追及しなかった。
バルジャンの心には先刻のルークの言葉『アンジェを頼む』という重い信頼に、嬉しさと誇らしさに交じる、ある種の苦さをも感じていた。
自分には騎士のような武力は持ち合わせていない。
が、騎士が戻るまでのひととき。
それまでは彼女を守り抜く……。
森の道筋の先端。
焚火らしい白い煙が細く立ちのぼっているが、二人は、まだその様子に気づいてはいない。
俯き加減で歩きながら、アンジェ(川野)は胸の内で思う。
(……朝焼けまで、もう少し……バルジャンさんになんて説明しよう。実は彼が黒狼のルゥで……とか信じがたいよねぇ、急にこんなこと言っても……ルークが人間でいられるのは、満月の夜の一日だけ……変身、大変かもしれないし……黒狼になる姿……確かに、誰にも見られたくないよね……)
朝の森は、立ち込めた靄で森の道の先へと続く視界が遮られている。
眠りが覚めた野鳥たちの合唱と、薄桃色に染まりゆく空。
夜露に湿った土の匂いも混じる。
アンジェ(川野)とバルジャンが連れ立って歩いている道のはずれに、焚火を囲む男たちが五人。
薄汚れた毛皮を纏い、腰を下ろして、みな一様にカップを傾け飲んでいる。
足元には、仕留めた兎や鹿が無造作に置かれているせいか、獣の生臭い匂いが放たれたまま。
一人の男が顔を上げて、こちらを向く。
「おや、いまから旅路かい? 」
「はい。これから北部の教会へ行くところです」
「北部か……かなり遠いな」
「ええ、今から行っても、到着は夕方でしょうね」
「ふーん。ところで、あんた、そこのお連れは奥さんかい?」
男は下卑た笑みを浮かべている。
バルジャンは、その問いかけに内心、ひやりとした。
「い、いいえ……妹です」
「ほうぉ、べっぴんさんだね、妹さんは」
別の男が、舌なめずりするように笑う。
「ほんと、こんな美人、滅多に見かけねぇや」
赤ら顔の男がヘッヘッと笑う口からのぞく黒い歯に、アンジェ(川野)は眉をしかめた。
男らの視線が、アンジェ(川野)の肌をなぞるようで、バルジャンの背筋に冷たいものが走った。
早く立ち去るべきだと、本能が叫んでいる。
アンジェ(川野)も同じだった。
(この男たち、乙女ゲームのシナリオには出てこなかったけど……ヤバイ気配がプンプンしてる。早く立ち去った方がいいよ。バルジャンさんもそう思ってる……よね? )




