第二十二章 「揺れる、心律(しんりつ)」①
いよいよ、ラストが近づいてきました。
ラストの第二十三章へと続く、この章。
アンジェ(川野)に対する、草食こじらせ系バルジャンと空気読めない俺様系ルークの想いがぶつかります。
外見17才、中身40歳のアンジェ(川野)は、この三角関係を丸くおさめられるのか……。
ぜひ読んでやってください( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
---ダンテス・クレイモン伯爵領 オルドリア正教教会 花火打ち上げから1時間後---
教会の中に、夜の冷気が忍び込んでいた。
聖騎士たちに怯えていた領民たちも、彼らが去ったあと、王宮から打ち上げられた花火を見ようと、教会の外で思い思いに楽しんでいるようだった。
だがバルジャンは陰鬱な気持ちで夜空を彩る花火を眺めていた。
(……アンジェは今頃、あの騎士と花火を見ている……)
そう思うだけで息が出来ないほど苦しい。
彼女と出会ってから、まだ十日も経っていない。
たった十日の月日が、これほどまでに容易く心を変えてしまうものなのか。
彼女が笑うと花が綻ぶように美しく、彼女の薄桃色の唇から発する声は鈴が転がるように愛らしい。
その彼女が他の男たちと親密に接した事実は、バルジャンの内臓を素手で掻き回してくるような耐え難い痛みとなっていた。
アンジェと過ごした短い時間が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「教会を避難所として立ち上げる、復興の第一歩」と、語り合った時間。
それが、あの騎士にすべて奪われてしまった。
彼女は、あの騎士との抱擁を、その身に刻んだままは、自分へ微笑みかけてくるだろう。
アンジェが恋人の騎士と教会へ帰って来る姿を見るのも、会うのも辛い。
自分はどんな顔で彼女と向き合ったらいいのだろう。
彼女の唇が、あの男の名を呼ぶのを聞きながら、平静を装って治癒魔法を使い続けることができるのだろうか。
(……このまま逃げたら楽になるのか……)
そんな、とりとめもない言葉が浮かぶ。
この教会を捨て、この街を捨て、家へ……両親の待つ家へ帰る。
その思いが強く募る。
だが、明日になれば各地の教会から、治療を望む人々がやってくるだろう。
救う命を見捨ててまで、自分の欲求に従うのは人道に外れている。
何が正解なんだ……自分と他人、どちらを優先するべきなのか…。
まさにその時だった。
アンジェと、彼女を抱きしめた騎士が戻ってきたのは。
「アンジェさん、その方は恋人ですか!! 」
バルジャンはアンジェ(川野)を見るなり、心配より先に強い口調で疑問をぶつけた。
アンジェ(川野)は横にいる騎士をちらっと見てから答える。
「あの……彼は、知り合いです、ルゥ……ルークです……」
「……知り合い……」
その言葉に、先程まで愛を告げていたルークの顔から血の気が引く。
次の満月でも、その次でも待つ……が、「知り合い」のまま、待てというのか。
彼は片手で額を押さえた。
永遠の誓いを交わすはずだった相手の放つ「知り合い」の言葉に、世界が揺らいだ。
バルジャンもまた、胸の奥で疑念が渦巻いていた。
「知り合い」の騎士と、いきなり熱く抱擁するもののだろうか。
それとも、この騎士が身勝手な愛を押し付けているだけなのか。
それよりも、バルジャンは、殺人者の聖騎士に狙われているアンジェを心配する気持ちが先に立った。
「アンジェさん、ここにいては危険です。いますぐ、教会を離れましょう。先程、あなたを狙う聖騎士が、血まみれの姿でやってきました。私の家はここから離れていますが、実家のパーシモン公爵家へ帰れば、絶対にあなたを守れます……あの黒狼を連れてきても構いませんっ!! 」
バルジャンはいつもアンジェ(川野)の側から離れない黒狼がいないのを不審に思いながらも、あえて黒狼を連れて行くことを提案した。
バルジャンの言葉が終わらないうちに、ルークは即座にアンジェの身体を、彼の方へ引き寄せた。
「いや、アンジェは俺が守るんです……先程、求婚したんです」
(あれ、また、それ言う? 『求婚した』って。まだイエスの返事はしていないよね……ルーク……イタ過ぎる……空気が読めないどころじゃない……)
はあっとアンジェ(川野)が、溜め息をついた。
「あなたが『求婚した』と、言うのは、アンジェさんが、あなたの求婚に納得して結婚すると言ったんですか? 先程、あなたのことは、知り合いと言っていましたが……」
(ぐっ、ぐっ、グッジョーブ……って言うより、そこ、ツッコミどころだよね、バルジャンさん。だてに、彼女いない歴35年でも、無駄に35年歴じゃないよね……なんてそういう私も無駄に40年生きてないしね、うんうん……)
「アンジェ……知り合いじゃないだろ、俺たちは……永遠の愛を誓う……待つって……」
ルークの言葉は続かなかった。確かな回答を、まだ何一つ得られていないと、自分でも、気づいたらしい。




