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第二十一章 「拮抗する想い」②

ガイは目の前にいる男に詰め寄る。



「アンジェは、ここにいるんですよね。アンジェを引き渡してください。彼女の身に危険が迫っているんです。今すぐ助けないと……僕はアンジェの恋人なんです」



先程の騎士といい、この聖騎士といい、アンジェの恋人面をする二人の若い男の登場に、バルジャンは苛立ちを抑えきれず、睨みつけた。



「おとなしく話しているうちに、アンジェをこちらへ引き渡した方が、あんたの身のためだぞ」



もう一人の背の高い聖騎士が、剣先をバルジャンの前へと、突き出す。

剣には乾ききっていない血。

顔から服にまで返り血を浴びている聖騎士の脅しに屈服することなく、バルジャンは冷然と答えた。



「……アンジェさんなら、もう、ここにはいませんよ。別の教会へ行ってしまわれましたから」



バルジャンは流れるような口調で嘘をついた。

恋人と名乗る聖騎士に付着している血が、バルジャンの警戒心を一層強める。



「……どうやら、嘘はついていないようだな……行こう、ガイ。どうやら、ここにはいないようだ」



ジャンが周囲の空気……物陰で怯える領民を見てガイを促す。



「でも、昨日の村人の話では、夜に銀髪の青い目の少女がピアノを弾いていたと……。アンジェという名前だと……」



「お前の知っているアンジェは、ピアノなんて見ることもなかったんだろう。見たこともないピアノを名人のように弾けるわけないじゃないか。教育も受けていない小娘だったはずだ」



ジャンはガイの肩を掴み、強引に出口へと向かわせる。


「ガイ、きっと、この教会にいたのは、別のアンジェだったんだよ。偽物か、それともお前の見ている幻影とかな」



「そうなのかな……」



肩を落とすガイの胸には、焦燥が渦巻いたままだ。

護衛騎士を斬り伏せる前に躊躇った気持ちも忘れ、ただただアンジェと会えない、届かない自分の気持ちへの、やるせなさと、苛立ちしか湧きおこらない。



ガイは一日も早くアンジェを、この手に取り戻したいと、強く願っていた。

例えその手が、どれほど他者の血で汚れようとも。




立ち去る聖騎士をバルジャンは腕を組み、見ていた。



(悪い夢を見ているようだ……彼女を欲しているのは、あの獣だけじゃない……会いたかったと人目をはばからず抱きつく騎士……恋人だと名乗る殺人者の聖騎士……あんな身勝手な若い男たちが、彼女を幸せにできるはずがない……彼らなんかより、私の方がアンジェの夫となるには、ふさわしい人間なんだ。私だったら、きっと彼女を幸せにできる……)



バルジャンは拳を固く握りしめ、「アンジェ……」と呟き、唇を噛んだ。

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