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第二章 「消えるジュリエッタ」②

「お任せください。」

ザイラス魔石店の主人の抑揚のない声が、ほの暗い室内に響く。



「それでは伯爵様はドアから出てお待ちください。おい、伯爵様をお連れしろ」



指示された中肉中背の下男は伯爵を伴い、ドアを出て、元来た通路を引き返して、店の前まで送る。



「それでは旦那様、三日後の夜にまた起こしくださいませ」



伯爵は、うんうんと首を縦に振ると、下男は大げさに頭を下げ、ドアをバタンと閉じた。



ジュリエッタは大丈夫だろうか、案じていても仕方ない、もう決断したのだ、今さら後には引けない。ダンテス・クレイモン伯爵は予約している宿屋へ向かうことなく、パブへと向かった。強い酒でも飲まないと正気ではいられない、そんな心境だった。




ジュリエッタはハッと目覚めた。目覚めたが眼が開かない。眼の周りが何かで塞がれている。口も拘束されて塞がったままだ。手を動かそうとすると金属の手錠がガチャガチャ鳴った。。足はもっと重く、動かせない。昨日見たあの(くさ)りの足輪が、はめられているのだろう。



それにしても……全身が焼けつくように痛い。喉も渇く、カラカラだ。水が欲しい。うううっ。こうして唸り声を上げ続けたところで、どうにもならない……こんなはずじゃなかった……妹のジュリエッテが代わりになってくれたら、良かったのに……



その時、バタンとドアが開く音がした。うううっ、うううっと唸るジュリエッタの近くに迫る足音がピタッととまる。ジュリエッタの喉に、誰かの手が当てられた。



あっ、殺される……


いやぁ-……と叫んだつもりが、ううぅっとする唸り声が漏れるだけ。と、ジュリエッタの喉に、どこからともなく、ソロソロっと水が流れはじめた。



これは何、この水はどこから? 唸るのをやめ、ジュリエッタは喉に流れてくる水をひたすら飲んだ。もう少し飲みたいと思ったところで、ジュリエッタの喉に押し当てられた手がサッと離され、同時に喉へ流れていた水も止まった。



魔法? ……



足音がベッドから離れ、バタン。誰かがドアから出て行った。



「ジュリエッタ……僕の可愛いジュリエッタ……」



どこからともなく、ガイの声。ガイの声を探して、ジュリエッタは頭を左右に動かした。



「ここだよ、ジュリエッタ……愛してるよ、君だけを。大丈夫、僕がずっと君の側にいるからね」



(ああ、ガイ兄さま。ガイ兄さまが、私の側にいてくれるなんて。大好きな、大好きなガイ兄さま。私も愛しています。ずっと、あなたのジュリエッタが愛してあげますよ、ガイ兄さま……ああ、もっと私に触れて……ガイ兄さま……)



ガイの温かい手がジュリエッタの髪と頬を優しく撫でつける。



ジュリエッタは心地よさと、安らかな気持ちに身を委ねる。

コクッ、コクッ、と舟を漕ぎ……穏やかそうに寝息を立てる。



部屋の片隅で、ジュリエッタのベッド目掛けて両手を伸ばしていた主人が、ぎゅっと手を握る。その拍子に、ベッドの横に佇む(たたずむ)ガイの姿は薄い幻影となり、音もなくスウッと消えた。

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