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第十八章 「花火と満月の間--擦れ違う心」③

「愛してる、 君を永遠に離さないよ……君の顔がブタにそっくりでも僕は君を愛しているんだ」



セリフを棒読みしているようなルークのセリフだったが、護衛騎士は二人をチラッと見て、

「銀髪のブタかよ……」と、ぷっと笑い、

「……お熱いことで」

そう、吐き捨てるように言い、 教会の方向へと足早へ向かっていった。



アンジェ(川野)が抗議の拳で、マントの中から、ルークの胸をゴンゴン叩くと、ルークは「しっ、静かに……」とアンジェ(川野)の身体をぐっと抱きしめた。



キン、カツン、キン、カツン、カツッ、カツカツッ……

続けざまに、足音が迫ってきていた。

先程の護衛騎士を追いかけて、教会所属の聖騎士二人が白いマントをたなびかせて走ってくる。



「あいつらの後を追うぞ。 急げっ! ! 」


「はいっ !! 」



聖騎士たちは、ベンチで抱き合う男女を一瞥しただけで、 護衛騎士と同じ方向へ走り去っていく。

しばらくして靴音が遠ざかり、 再び広場に静寂が戻った。



(ブタ……ひどい……ブタなんて、あんまりだよ……)

ルークはまだアンジェ(川野)を守るように抱いたままで、一言も発しなかった。

ブタ発言はムカつくものの、ルークの身体の温もりがふわっと伝わり心地良い。



一方のルークは、 アンジェと”永遠の愛”を交わせるのは、次の満月だろうか……それとも、まだ先の満月だろうか、という苦しい思いが、またこみ上げてきた。



アンジェ(川野)がルークの胸で、はあっと溜め息をつく。

ルークは名残惜しそうにアンジェ(川野)を抱きしめた腕をほどき、彼女の身体を覆っていたマントをそっと外した。



「……あいつら行ったみたいだ……あの話……本当? アンジェは偽物の皇女なの?……」



不審そうに眉を寄せるルークにアンジェ(川野)は首を傾げて言う。



「わたし……ブタに見える? それとも偽物の皇女に見える? どっち?  」


ハハハッ……とルークが目尻を下げて笑う。

「 こんなに美しい女性がブタ? 誰だよ、そんなこと言う奴は……麗しい皇女アンジェ様」



少年のあどけなさが残るルークの顔に、アンジェ(川野)はムスッとしていた感情も消え、クスクスっと笑った。



「もう、次にブタって言ったら許さないから……」



「わかったよ、ごめんよ、アンジェ。でも、ああでも言わなきゃ、危なかっただろ」



「確かにね……まあ、皇女アンジェ様としては、寛大な心でルーク王子を許してあげますよ。ねっ、黒狼に変身するルーク王子様」



「……えっ?……俺……変身とか、 王子とか、 まだって言ってないよね……なんで知ってるの? いつわかった? 」



「……ハッハッハ、 全部、お見通しだよ、 明智くん! ! ホンモノの皇女アンジェの発言にウソ、イツワリはないのだよ」



アンジェの低音男声に、ルークは首を傾けながら、まじまじと見つめる。

「……アンジェは本物の皇女だったんだ……」



アンジェ(川野)は左目でウインクをして見せた。

(……やっちゃった……明智君の方は、このままスルーしてくださぁい)


両親が亡くなったあと、引き取って育ててくれた祖父母、特に祖父の影響で昭和のオヤジギャグが抜けきれない。

離婚した元夫からも『寒いギャグ、 やめろよ』と毎度呆れられていた。



「……知ってたんだね、俺の事……本当は知られるのが怖かった……知られたら嫌われて、もう会えなくなるかもって思ってた……アンジェ、俺のこと、嫌いになったりしてない?」



(……ホッ、スルーしてくれた……良かった)

「なんで? 黒狼のルゥも人間のルゥも嫌いになるわけないって……」

(……何をいまさら。好きに決まってんじゃん……『マジカルラブムーン』攻略対象の大本命だよ、ルークは……)



「アンジェに知ってもらって、気持ちが少し楽になった気がする。それに……お互いに王族だったなんてね……アンジェってさ、不思議な人だよね。一緒にいると楽しいし、落ち着く。 ……母上みたいだ。 俺が6歳の時に亡くなったから 覚えていることは少ないけどね」



そう苦笑いするルークの横顔が辛そうに見える。


 

「そうだったんだ……子どものころにお母さんがいないのって寂しかったよね」


 

「うん、そうだね。 だから剣術に打ち込んだんだ。 母上のことを思い出したくなくて……すぐに継母がきたけど。 母上の姉君だった人……母上より、 すごく年上だったし、 好きになれなかった」

 


「継母って、 そんなに年上の人だったの? 」



「うん、 すごい年上。29歳だったと思う、 新王妃になったとき」

 


「ううっ……すごい年上が……29歳? ……ってことは……ルークのお母さんって、 いくつだったの? 」



「母上が亡くなったのは20歳だよ。今の俺と同じ歳……」



アンジェの頭は暗算モードへ突入した。



「ええっと……お母さんが20歳で亡くなったんだよねぇ、 ルークが6歳のときって……14歳で出産……ううううっ……中2……」



アンジェの頭に、 チーンの音が鳴る。

「中2……詰んだ……」



「つんだ? これ、 ツン」 のツンで鼻をつまみ、「ツン」 と 自慢気に言って見せるルーク。

が、アンジェ(川野)は無言で冷たい視線のまま。



「……そうか、アンジェはツンよりワンの方が好きなんだっけ……じゃ、ワン。……アンジェ皇女様、愛してるワン、愛してるワンワン、ワンワンワン」



美形男子のイメージが崩壊するワンワンモードに、アンジェ(川野)は思わず、ぷっと笑い、そのまま笑い転げるアンジェ(川野)を見て、ルークも一緒に笑い出した。



先程まで張りつめていた空気が和らいでいく。

満月はどこまでも白く穏やかな光で二人を照らしている。

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