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第十八章 「満月と花火の間――擦れ違う心」②

「……満月って……今夜だけじゃないでしょ。……来月も、その次も満月は来るんだから……」



アンジェ(川野)はつい、心の思うままに口走ってしまい、そう言ったあとで(しまった、言い過ぎた……)と、ルークを見ると、沈鬱な表情を浮かべ、地面に顔を落としていた。

教会でピアノを弾いていてルークに抱きしめられたとき、呻きにも似た小さな囁きで、ルークは言ったのだった。

「……48年待って……やっと……」、と、あの心の声を今さらながらに思い出した。



(……そうだよね、48年も黒狼のままだったんだもんね……アンジェと出会ったルークが、これで呪いも解ける、そう思って天にも舞い上がる気持ちだったのは痛いほど知ってるのに……ああ、私ったら、いい歳して包容力ゼロだ……若い男の子と張り合おうとして……なにやってるんだか……ゴメンって言ったら許してくれるかな……でもゴメンじゃすまないよね……)



気まずい沈黙が二人の間に流れる。

アンジェ(川野)がルークに謝ろうとした、その時……ドーンという低い轟音に続き、パチパチパチっの音とともに、夜空に大輪の花火が上がった。



ドーン、ドーン、パチパチパチ。

花火が次々と打ち上げられていく。

家々から人々が「花火だぁ」と出てきて、みな夜空の花火を見上げている。



アンジェ(川野)は思わず声をあげた。

「……わあ……すごい、きれい……」



ルークがアンジェ(川野)の手をぎゅっと握りしめた。

アンジェ(川野)の透き通るように白い頬には、赤や青に明滅する花火が映り込んでいる。



「アンジェの方がきれいだよ」



「ルゥ……ごめんね、さっき、言い過ぎちゃって……」



「……いいよ……次の満月でも、その次でも……俺、待つよ」



「本当にいいの?」



「うん……」

と、寂しそうな顔のルークに、アンジェ(川野)は胸がチクリと痛んだ。



暗闇を色鮮やかに染め上げた花火が終わっても、アンジェ(川野)とルークはベンチに座っていた。

花火見物の人々が去っていく。



「ねえ、アンジェに聞きたいことがあるんだ」

と、唐突にアンジェ(川野)の顔を見つめて、ルークが言う。



「何を? 」



「アンジェが初めてピアノを弾いた日なんだけど、 あの時のピアノの曲はアンジェが作ったの? メロディーがずっと耳に焼き付いているんだ」



「ああ、 あれ……あれね、 「エリーゼのために」 という曲なの。 ベートーヴェンのピアノ曲で、 超有名。 私も小5の時にバイエルが終わって、 やっと弾けるようになったんだ」



「いま、 ベートーヴェンって有名な人がいるの? ショウゴ? バイエル? それも有名? 」



「あっ、 ごめんね、 単語がわからないんだよね。 うん……えっとね、 なんていうか……ジャジャジャジャーン♪ みたいな感じのと……チャララララン、 チャララララン♪ みたいな感じの曲とか作れる人が、 むかーし、 むかし、 あるところにいたみたいよ。 ショウゴちゃんとバイエルちゃんと一緒にね……ハハハ」


「そうなんだ、 すごい人が、 すごい名曲を作るんだね」



「うん、そうだねぇ」

 アンジェは、ニコッの顔を作る。が、中の人は笑っていない。 

(中の人は……毎度、毎度、単語の説明をしなきゃいけないんだよね……つかれるぅぅぅ……)




カツン、キン、カツッ、カツカツ……

通りの向こうから、石畳を打つ靴音と剣の擦れあうが近づいてきた。

腰の剣が月光を反射し、 護衛騎士だとすぐに分かる。



一人の護衛騎士が叫んでいる。

「皇女様に似た女がいるという噂の教会は、 この近くだそうです。 住民の話では、 確かに銀髪で青い眼だったと」



「そうか、 その偽物が、 皇女のアンジェ様と入れ替わろうとしているんだったよな。 アンジェ様を冒涜する、 クソ悪女め。 我等で一刻も早く捕まえて、 ハウゼン国王の前に突き出してやろう」



「おお、 そうしよう」



ルークは護衛騎士の言葉にハッとして、 自分のマントを引っ張るとアンジェ(川野)の身体を、さっと包み込んだ。

マントの端からアンジェ(川野)の銀髪が、わずかに……はみ出ていた。



護衛騎士の一人が、「おっ」と言い、アンジェ(川野)の銀髪を眼に止めたようで、

「おい、そこのおまえ……」

と、ベンチの方へ近づいてきた。

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

応援もブックマークも本当に、嬉しいです、ありがとうございます(⁎˃ᴗ˂⁎)


この話を書こうと思ったのは、2025年12月31日、たまたま読んでいたアプリのピッコマで、ピッコマノベルス大賞を知ったからです。異世界転生、令嬢が活躍するというテーマ。それを6日かけてプロットを練り、1月12日に未完で178枚くらいの原稿を書き上げました。


が、ピッコマノベルス大賞には投稿するため未完成にするという縛りがあり、一番最後にヤマを持っていくためには、書きたい内容をどうしても削らなければいけなくて……本当に辛く、すごく悩み、かなり削ってしまいました。


なんとか応募したのはいいんですが、削り過ぎた話で1次予選通過は厳しいなと実感し、「小説家になろう」と「note」に綴っていくことに決めました。


いま"小説家になろう"と"note"とに連載しているものが、本当に書きたかった、削っていない方の話です。


第一部の1話から20話までが、アンジェ、義兄のガイ、呪いをかけられて黒狼になっている王子ルーク、治癒魔法師のバルジャンが中心で話が進みます。それなのに、なぜ、意地悪な養父、養母、悪意ある双子、あるいはテロを支援するエンゲル公爵や、黒マントの男が、数多く登場するのか疑問に思われるかもしれません。


彼、彼女らは、この先の第二部、第三部へと繋がる話で重要な役割を果たすことになるため、第一部の早い段階で登場してもらいました。



第二部では、こどもの頃、アンジェが読んでもらった「狼王子」の絵本の真実が明かされます。当事者しか知らない隠された真実とともに、黒狼は1匹だけではなく……。


恋愛の方はというと、ラント国の王子フェルゼン(ルークの弟)、別の黒狼、バルジャンと激しい恋のバトルが繰り広げられる予定です。


noteでは毎回、AIで作ったイラストを冒頭に飾っていますので、ご興味がありましたら、ぜひそちらも見てやってください。


第一部も、あと少しで終了となりますが、次回も読んでくださると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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