第十八章「満月と花火の間――擦れ違う心」①
ルークは教会の裏手でアンジェ(川野)を抱きしめていた。
が、バルジャンが、不機嫌そうな顔で近づいて来るのを見て、引き離されそうな雰囲気を感じ、
「少し、歩こうか……」と
アンジェ(川野)を促した。
「うん、そうだね」
アンジェ(川野)はルークに手を引っ張られるように歩き始めた。
月灯りが青白く照らす夜の街を、先程まで抱きしめられ、キスをした王子と一緒に歩いている。
それだけで、アンジェ(川野)の胸は早鐘のように鳴り響いていた。
ルークは歩きながらも、アンジェ(川野)を気にしているようで、視線を何度もチラチラ送って来る。
人間になったいま、アンジェ(川野)の甘い香りを感じることはない。
が、握りしめている指の先から伝わる彼女の体温が愛おしく、自然に力がこもり、強く握ってしまう。
「……アンジェ……」
「なあに……ふふふ」
答えながらも(ヤバイ……尊さに、にやけた……)と、反省するアンジェ(川野)。
「アンジェの笑顔、こんなに近くで見れて、最高だよ」
(笑顔じゃなくて、にやけ顔なんだけど……テヘッ)
「そうお?」
(ここは努めて冷静に……大人の余裕を見せなきゃねっ)
ルークとアンジェは広場へと来ていた。
ベンチへ腰掛けようとすると、
ルークが自分のマントをベンチに広げ、「ここへ」と手で合図した。
(服が汚れないようにしてくれてるんだね……優しいね、男の子って)
「ありがとう」
ルークがにっこり微笑む顔が、アイドル男子なみにキラキラしている。
(ああ……ドキドキしすぎて、心臓が持ちこたえられそうにないよぉ)
アンジェ(川野)は恥ずかしくなって俯く。
と、ルークがアンジェ(川野)の顎を指で持ち上げて、視線を合わせてきた。
「アンジェ、俺のことだけを見ていて。君の瞳に俺だけを映して欲しい。初めて会った日から、一日も忘れたことがなかった。君だけが俺の光りなんだ。愛している、この髪も……この額も……この瞳も……この唇も」
そう言いながら、アンジェ(川野)の髪から唇まで、ルークは静かに優しいキスをする。
アンジェ(川野)は全身が火照って真っ赤になっていくのを感じる。
40年生きてきたけれど、こんなに熱い告白をされたことも、髪にまでキスされたことなんてない。
「俺はアンジェと共に生きて行きたい。アンジェのためなら、なんでもするよ。いや、なんでも出来る。君がいれば……さあ、 アンジェ、 いますぐ結婚だ、 これから教会へ戻って聖女に宣誓して、 永遠の愛を誓い合おう。今日から君は俺の妻だ」
ルークの告白を夢見心地でうっとり聞いていたアンジェ(川野)は、「いますぐ結婚だ」「俺の妻だ」の、俺様発言を聞き、「はっ」と正気に帰った。
「ちょっと、待ったぁ……じゃなく、ちょっと待って。そんなに結論を急がないで。 今日、 初めて会ったんだよ、人間としてのルゥに。」
(私の答えを待たずに、ひとりで勝手に決めてる……私の答えは置き去りでもいいわけ……)
アンジェ(川野)はルークが繋いでいた手を振りほどいた。
ルークはきょとんとした顔で、なぜ結婚を喜んでくれないのか、本気で分からないという表情でアンジェ(川野)の瞳を覗き込む。
「……ルゥ、私の気持ちも考えてよ……」
「俺のことが嫌いなの? だから結婚したくないの? 」
「ちがーう。あのね、ルゥ。好きとか嫌いとか、 そういう問題じゃないの。 さっきの言葉、あれなに? 『いますぐ結婚だ』 それってプロポーズ……あ、 プロポーズって言葉知らないか……そう、 求婚、 求婚の言葉なんだよね? 」
「そうだけど……求婚したから怒ってるの? 」
「そうじゃなくって……」
アンジェ(川野)は(話が通じない……)とガックリ、うなだれた。
「アンジェ、今夜なんだ……満月の今夜でなければダメなんだよ」




