第十七章 「今宵、満月の下で……」②
そして再びの満月の夜。
ウンデルの森の麓で月光を浴び、黒狼の体が白光に包まれた。
……そして、人の姿から、騎士の姿へ戻ったルークは、息を整える間もなく、全力で教会へ走った。
この胸にアンジェを抱きしめたい、永遠の愛を誓いたい……ルークの心は愛に満ちていた。
教会の中から、ピアノの音。もう演奏が始まっていた。
ピアノを弾く、アンジェの横顔が見える。
「アンジェー、アンジェッ!!」
教会の入り口へ駆けてきたルークが叫ぶ。
アンジェ(川野)は突進してくるルークに、がばっと、背中から抱きしめられ、「あっ」と発する声の後には、ルークの腕の中に包まれていた。
住民たちはアンジェ(川野)の演奏を楽しみに集まっていたはずだが、若い二人の抱擁が、熱すぎるせいか、
「恋人の騎士さんが会いに来たのね」
「若いって、いいねえ」
「アンジェ、良かったね」
と、周囲から祝福の声が湧いた。が、バルジャンだけが不快そうな面持ちで二人を見ていた。
(ちょっと、待って。今夜、ルークが変身するのは知ってるけど……いきなり、抱きしめるとか……さすがに人間のルークとは初対面なのに……でも、尊い……ああ、この美形に抱きしめられたら、悪い気はしない……やって来た来た、ご褒美イベントって感じ? アハハ)
「ちょっと……ちょっと待って」
アンジェ(川野)の声に、ルークはハッと我に返り、慌てて身体を離した。
「ご……ごめん」
ルークは金色の瞳を輝かせ、アンジェ(川野)の手を取る。
「アンジェ……今から二人でゆっくり話したい」
「……うん、外、行こうか……」
二人は連れ立って教会の裏へ廻った。
(黒髪のルーク……この美形の長身に、こんなこと言いたくないけどね……大人の私としてみたら……いきなり抱きつかれてホイホイ……みたいな、都合のいい女は嫌だったりするのよ……これでも中の人は40歳……でも、椿様の声だとホイホイ全開に……)
ルークがアンジェ(川野)の顔を見つめて、いまにも泣きそうな顔で言う。
「アンジェ、ごめん。俺……悪気があったわけじゃない。ずっと会いたかった。ずっと、抱きしめたかった」
ルークの目から、大粒の涙が溢れる。
「うん……そうな……」
と、アンジェ(川野)が返事もしないうちに、またルークはアンジェ(川野)の身体を再び抱きしめた。
「……アンジェ……俺は……俺は、君のことを愛しているんだ……」
力強く抱きしめられたアンジェ(川野)はルークの背中を、よしよしとポンポン叩きつつ、
「うん、うん……そんなに想ってくれて、ありがとう」
と、抱きしめられたままでいた。
(そうだよね……48年は長いよね、シナリオじゃなく、生きてるんだもんね……ゲームではルークが黒狼になっている時間……こんなに長くはなかったよ……)
「ひとりぼっちで、辛かったんだよね、ずっと……えらいね、今まで、よく頑張ったね……」
アンジェ(川野)の、その言葉が心に響いたのか、ルークは突然、崩れ落ちるように大声で泣きだす。
「……アンジェ……アンジェ……うわんうわん」から、いつのまにかワンワンワワン……と声を上げ続けて泣く。
(おいおいおい……いま人だよ、ワンワン、ワワンって言っちゃって、これじゃ、犬のおまわりさんだよ…ほんと辛いよね……ぷぷぷ、ゴメン)
「よしよし……いい子、いい子」とアンジェは手を伸ばして、背の高いルークの黒髪の頭を撫でる。
(おじいちゃんちで飼っていた柴犬の虎丸……動物病院に行くと怖気づいちゃって……リードを引っ張っても、ウワワワンと哀れな声で、泣きそうな顔で踏ん張ってたっけ……虎丸……元気かな……)
ルークの右手の手首には金の腕輪が月明りにキラキラ輝いていた。
アンジェ(川野)が金の腕輪をそっと触る。
ヒンヤリとした感触。
ルークが泣き止み、腕輪に触れているアンジェの手を見つめた。
「この金の腕輪……ルウの前肢にある金の腕輪だよね」
コクリと頷くルーク。
金色の瞳は、いつも見慣れているルゥの柔らかな色をたたえた瞳。
「ルゥ、あなた、ルゥだよね……泣かないで。私は、あなたの……味方だから。悪い魔女の呪いなんかに、負けちゃだめだよ。永遠に愛する女性を探すより、魔女を探しに行こう、それが呪いを解く近道だと思う。私も手伝うから、ねっ、一緒に、魔女の呪いを解きに行こう」
「アンジェ!!! 愛してるっ!!」
ルークは、ぐいっとアンジェ(川野)の身体を抱き寄せ、熱く唇を重ねた。
(ええっ、なに、この展開……犬のおまわりさんから、ナイトへ変身!? クスッ……尊い椿様のお声ぇ……ああ、次から次へと愛を告白されるなんて……キスも2人目だよぉ……四十にして迷わずっていうけど、こりゃぁ迷うよ……くうううっ、転生って、最高ぉぉぉ)




