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第十六章 「追われる者」②

---ラント国 王宮 王の執務室---



フェルゼン第二王子がラント国の宮殿に戻ると、すぐに父ツォーク王から呼び出された。

王の執務室には侍従長が、「また、なにかやらかしたな」とでも言うような目つきで、フェルゼンを見ている。



「フェルゼン、今日、鹿狩りに行ったそうだな」

(……むかしは、フェルゼンに対し、すぐ怒ったが、どうせ怒ったところで、馬耳東風だ)



「今日の爆破事件を知っていたのに、のんびり鹿狩りへ言ったのだな」



フェルゼンは、これから始まる、いつもの父上のお叱りだろう、と、低頭を決め込んだ。

黙って聞いていれば、話疲れて終わる、と。



「はい、父上。教会が2、3爆破されたのは知っておりました。ですが、爆破という大それたものではなく、花火程度のものが打ち上がり、天井にぶつかるのみ。たいした被害はないと聞きました」



「そうか、おまえは、たいした被害がなければ、鹿狩りにいっていいと判断したのだな」



「はい、おっしゃる通りです、父上。わが国には優秀な人材が多いですから、みな、適宜判断して最良の始末が出来るため、私は必要ではないと判断した次第です」



ラント国王のツォークは、金の飾りがふんだんに施された王座の椅子から、がばっと立ちあがる、眉間の縦皺を深くし、怒鳴りつけた。



「この……この、大馬鹿者!! 民あっての王室、民あっての国家ではないか! 一にも二にも、民の安寧を第一とすると、何度同じことを言わせるのだ、このバカモノめがっ」



(……毎度、父上から、同じ言葉を聞く。わかってはいるさ。俺だって。別に、好きで王子に生まれてきたわけじゃないんだ。後継者になるも、ならないも、選択権を与えてほしいよ。まあ、父上には、こんな話は通じないだろうが)



「誠に申し訳ございません、父上。フェルゼン、以後、肝に銘じます!! 」



「フェルゼンっ!! まいどまいど、肝に銘じると言うが、お前の肝は……腹に幾つあるんだっ」



側で聞いていた侍従長が笑いをかみ殺しているのを見て、

フェルゼンは思わず、アハハハハと、大声で笑ってしまった。



「父上、決まってますよ、肝は一つです、ひとつ。ハッハッハ」



「いますぐ、ここから出て行け、この、この、大バカ者っ。お前の顔など、金輪際、見たくもないわっ」



「ははっ、ご王命と有れば出ていきます」

と言い、父に一礼すると、フェルゼンは席を立ちドアから出て行った。



そのドアを閉めたろから、アハハと笑うフェルゼンと家臣の声が響き、ラント国王のツォークは、

「あの、馬鹿息子が……」と、怒り治まらずにいた。



王の執務室を出たフェルゼンは、廊下を歩きながら、肩をすくめる。



家臣の一人が恐る恐る声をかける。

「殿下……さすがに、あれは言い過ぎでは」



「いいや?」とフェルゼンは軽く笑った。



「父上は、ああやって怒鳴らないと自分を保てないんだ」



 笑みを浮かべながらもフェルゼンの胸の奥に、小さな”ささくれ”だった感情が残っていた。



王子として生まれ、王子ゆえに叱られ、王子ゆえに期待される。

それがどれほど息苦しい”檻”なのか、誰も理解してくれない。



(民を思う心はある。けれど、王冠の重さを背負う覚悟まで、強制される筋合いはないだろ)




一方、執務室に残されたラント国王ツォークは、椅子に深く腰を下ろし、手で、こめかみを押さえていた。息子を怒鳴った直後は、いつもそうだった。



ツォークの机の上に、教会爆破の報告書と、国境付近で隣国の騎士が斬られ、村に運ばれたと記されていた。



ツォークの心は晴れない。

ルークとフェルゼン、二人の息子。



フェルゼンは軽薄そうなフリをする。それでいて、どこか諦めたような目をしていることを、ツォークは見逃してはいなかった。



怒鳴りたくて怒鳴っているのではない。怒鳴ることでしか、息子を王の器に近づけられない自分の不器用さも、そこには含まれている。



「侍従長」



「はっ」



「……フェルゼンの助けた者はどうなった、経緯を報告せよ」



「はい、先程、村から知らせが届き、一命は取りとめたものの、重症には違いないとのことでございます」



「侍従長、おまえに問う。フェルゼンは何故、隣国の騎士を助けたのだ。越境したことなど、すぐにバレるだろうに……」



「陛下……フェルゼン王子は、小さな時から、とてもお優しい性格をお持ちです。陛下もご存知の通り、木から落ちてきた鳥の雛を見つけたら、自らが木に登り、親鳥の巣へと雛を戻します。我等に命じることなく、自らが判断し、行動していく。そういう性質が、いまもそのままフェルゼン王子が持っておられる、ということではないでしょうか」



ツォークは自分が求めたい言葉を侍従長から聞き、安堵したい気持ちがあった。が、その気持ちは心の内へ押さこんだ。



「侍従長……優しさだけでは(まつりごと)は出来ん。時には斬り捨てる勇気がなければ、王の器とは成り得ない」



「ははっ」



ツォークは侍従長の白髪の頭部を見つめた。



(おまえのような者にも、こうやって理解してくれる臣下がいる……。フェルゼン……いつになったら……変わるのだ)

ふぅっと、ツォークは深く溜息をついた。

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